第6話「ベッヒャー伯爵家の没落」

私が彼から離れた六つ目の理由、彼の浅はかさに心底嫌気がさしたから。




帰国して最初に聞かされたのは、ベッヒャー伯爵家が事業に失敗して多額の借金を負ったことだ。


それに伴い、コニーとグリゼルダの婚約が破棄されたらしい。


コニーとグリゼルダがどうなろうと私には関係ない。


しかしナヨタ子爵家はそう思っていないようで……。


ナヨタ子爵家はベッヒャー伯爵家に多額の融資をしていた。


このままではナヨタ子爵家も共倒れだ。


ナヨタ子爵家は、うち(クルツ子爵家)に援助を求めてきたのだ。


しかも婚約破棄したばかりのコニーを引き連れてやってきた。


私はコニーに会いたくなくて、彼らが尋ねて来たことを知り自室にこもった。


両親が応接室でナヨタ子爵たちの相手をしている。


家の優秀な使用人が応接室での話を逐一教えてくれるので、部屋にいても両親が彼らと何を話しているか分かるのだ。


ナヨタ子爵は、

「昔からの約束通りコニーとアリーゼを結婚させよう。

 やはり気心がしれた幼馴染と結婚するのが一番いい。

 コニーもアリーゼもお互い初恋同士。

 悪い話ではないだろう?」

と言ってきた。


夏休み前コニーは、

「グリゼルダと婚約するから、クルツ子爵家とは縁を切る!」と言っていた。


大衆の面前でそう宣言したのだ。子供の戯言では済まされない。


パーティーのあと、ナヨタ子爵家から当家に対する謝罪はなかった。


それはコニーの言葉をナヨタ子爵家が認めたも同然。


なのに今更どの面下げて家の敷居をまたげるのかしら?


図太い神経の一家に私は心底辟易していた。


メイドが「両家の話し合いは決裂しそうです」と告げに来た。


まあ、そうなるだろうと思い私はメイドを見送った。


メイドが私の部屋を退室したあと、メイドと誰かが廊下で言い争う声が聞こえた。


どうやらコニーが応接室を抜け出し、私の部屋の近くまで来ているらしい。


幼馴染とはいえ、他人の家を許可なく歩き回るなんて礼儀のなってない男ね。


コニーはメイドの静止を振り切り私の部屋の前まで来ると、

「僕はアリーゼと結婚していずれこの家の主になるんだ!

 僕の命令が聞けないならクビにはするぞ!」

と脅し近くにいた使用人たちを勝手に下がらせた。


使用人たちはコニーの命令に従い下がっていったようだ。


おそらく下の階にいる両親を呼びに行ったのだろう。


コニーは私の部屋の扉をトントンと叩き、

「アリーゼいるんだろ!

 僕だよ、コニーだよ! 

 パーティーでのことは謝るよ、開けてくれ!

 仲直りしよう!」

猫なで声でそう言った。


「帰って、迷惑だわ!」


私が冷たく言い返すと、今度は部屋の外から怒鳴り声が聞こえた。


彼は扉をドンドンと乱暴に叩き、

「おい開けろよ!

 優しく声をかけてやれば調子に乗りやがって!

 お前、学校での自分の評判を知っているのか!?

 『グリゼルダの劣化コピー』『嘘つきアリーゼ』だ!

 評判が悪くブサイクでセンスのないお前を、嫁に貰いたがる物好きはこの国にはいないんだよ!

 イケメンの僕がお前ごときで手を打ってやるって言ってるんだ!

 下手に出てる間に出てきて『はい』と返事をしろ!

 応接室に行っておばさまとおじさまにこう言うんだ!

 『コニーは初恋の人よ。私、彼と結婚するわ!』ってな!

 それからナヨタ子爵家へ融資をするように、おじさまとおばさまを説得しろ!!」

と言ってきた。


完全にうちの財産目当てだ、このクソ野郎。


こんな奴に惚れていた時期があるなんて最低だ。完全に黒歴史だ。


「あんたみたいな最低な男、死んでもお断りよ!!」


あまりにも腹がたったので、私はドアを開けて叫んだ!


コニーは私を見てしばし呆然としていた。


しばらくして彼は目を何度も瞬かせていた。


「アリーゼなのか……?

 驚いたよ、こんなに美しくなるなんて……。

 僕はグリゼルダに騙されていたんだ。

 頼むよ許してくれ!

 もう一度やり直そう!」


あれだけ最低なことを言っていたくせに、舌の根もかわかないうちにこの男は……!


「やり直すも何もあなたとは何も始まっていないわ!

 帰って!

 顔も見たくない!!」


私がそう言うとコニーは額に青筋を立てた。


「ちょっと可愛くなったからって調子に乗るなよ!

 メイドも執事も下がらせた!

 ここには僕たちしかいない!

 僕がその気になればお前を手籠にだってできるんだ!

 そうだ先に体の関係を結んでしまおう、それから婚約だ!」


そう言ってコニーが私の部屋に押し入ってきた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る