第30話 人造人間

「今回は部屋にいるものすべてが私を認識できるように仕掛けした、大サービスだ」


「「「あの……」」」

 突然現れた美丈夫に生きている三名は目を丸くした。


「私はこやつを監督している者」


 精霊サタージュはクロを指して言った。


「ではあなたが『正義の神』」


 ゼフィーロが言った。


「まあ、そういう呼ばれ方することもあるね」


 サタージュが答えた。


「『サタ坊』が一番よく呼ばれるよ!」

「その名は言うなって言ってるだろう!」


 クロとサタージュが掛け合い漫才みたいに言い合う。


「君たちがそろそろ助けを必要とする頃だと思ってやってきたんだ、感謝してほしいな」

 サタージュはそう言ってロゼラインにヒト型の白い塊を差し出した。

「なんですか、これは?」

 両手におさまるくらいの小さな人形を見てロゼラインは聞いた。

人造人間ホムンクルスさ。ここに魂を入れれば現世で人と同じように活動できる」

 サタ坊が質問に答えた。

「そんないいものがあるなら、なぜ、最初にだしてくれなかったんですか?」

「これは私ではなく、私と同格の精霊の能力でしか作れないんだ。頼み込むのにちょっと時間がかかったんだよ」

「同格の精霊……?」

「さよう、この世界は私を含めた四体の概念の精霊が柱となって支えている。そのうちの一人が人ではないが人とそっくりな人体の複製品レプリカを作ることができるんだ」



「とりあえず入ってみたら。ほら、前に人形に憑依したことがあったでしょ、あの要領で」

 クロが促した。

「そうね……」


 ロゼラインは半信半疑でその人形の中に入り込んでみた。

 意志をもって入ろうとすると吸い込まれるように中に納まった。


 すると人形は身体を少しづつ大きく膨らませ、生前のロゼラインの姿へと変貌した。


「これはこれは!」

「まあ!」

「ロゼライン様!」


 生きている三名が口々に感嘆の声を上げた。


「うん、人造人間ホムンクルスなので、どんな毒も聞かないし、刺されたり殴られたりしても痛みは感じないし、死にもしない」

 サタ坊が説明した。

「ほぼ不死身じゃないですか!」

 ロゼラインが驚いた。

「でも、人造人間ホムンクルスだから繁殖能力はないし、飲食はできるが消化吸収や排せつ能力もなく、食べたものは中に貯めておいて後で取り出すか、空気と同じ成分に分解して排出するしかないんだ。まあ、見た目人間と同じだから生きている人間のふりをして活動することはできるよ」


「いや、しかし義姉上の姿で王宮に現れたらそれこそ大騒ぎが……」

 ゼフィーロが懸念を述べた。


「これは自分の意思で容姿も変えられるんだがな、元の姿が都合が悪いなら、別の姿を頭に思い浮かべてみるとよい」


 サタ坊に説明され別の姿、ロゼラインはもう一つの自分、北山美華の姿を思い浮かべた。


 プラチナブロンドの女性が黒髪の女性に変化した。


「これならどうかな? メイドか何かに成りすませるんじゃないかしら?」

 ロゼラインは衣装も王宮内で働く女性たちの衣装に合わせてみた。

「衣装も自在に変えられるなんて便利ね」


「黒髪に黒い瞳。十数年前にこの国が併合した辺境の民ならそんな姿かたちをしていたな、でももう少し手直ししたほうがいいのじゃないか?」

「手直し?」

「この大陸の人の平均的な顔立ちは君の前世の日本人の顔より目鼻立ちがはっきりして彫りが深い。髪と瞳の色はそのままに顔だけロゼラインに近い形にした方が良いな」

「美華の顔じゃだめですか?」

「いやいや、美華の顔もそれなりに可愛いけど、王宮に入り込むならより不自然じゃない方がいいかなと……」


 ロゼラインと精霊が相談し合いながら人造人間の形を変えてゆく様を、生者三名はぽかんとした形で見ていた。


「ほらほら、感心してないで! これでロゼラインも捜査に加わることができるわ。奴らのより近くで秘密がつかめるような働き場所をエライ人が手をまわして確保しないでどうするのよ!」

 クロがゼフィーロたちを促した。


 日本人の美華とロゼラインを足して二で割ったような容姿の女性が潜入することになった。

 その結果は果たして?




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