第6話 くされ外道がっ!
アイリスに逃げられたヨハネスはその後パリス王太子の私室へと向かった。
部屋にはロゼラインの弟のエルフリードをはじめ、王太子を取り巻くいつもの面々が集まっていた。
「首尾よくいったか?」
入ってきたヨハネスにパリス王太子が尋ねた。
「はい、途中で逃げられましたが、あれだけやっておけば第二王子との婚約破棄は時間の問題かと」
しれっとした顔でヨハネスが答えた。
「あの娘は生真面目に貴婦人として受けた教育を守ろうとするところがあるからな。強引に迫ってキスの一つもしてやれば、それだけで弟にあわす顔がないと考えるだろうて」
「そこまでうまくはいきませんでしたが、これでだめなら同じことを何度か繰り返して、あとうわさを流すのも一つの手ではないかと」
王太子と近衛隊士とは思えないクズなやり取りである。
「それにしてもなぜヨハネスでなければいけないのですか? アイリス嬢なら相手として迫ってみたい男はここにもたくさんいますよ」
二人のやり取りに別の若者が口をはさんだ。ヨハネスと同じ近衛隊のシュタインバークである。
「家の釣り合いの問題さ。もともと王太子殿下はノルドベルク公爵家と、第二王子はウスタライフェン公爵家とそれぞれ縁組をしていた。でも殿下はノルドベルクとの婚約を解消され、新たにサルビア・クーデン嬢と婚約された。クーデン男爵家は権力の後ろ盾となるには力が弱すぎる。その状況で第二王子が公爵家のアイリスと結婚したら、王太子の地位を脅かす危険性が増大するから、それを防ぐために先手を打って第二王子の縁組を壊しておきたいというわけさ」
同じく近衛隊でヨハネスの腰ぎんちゃくのヴェルデックが説明した。
「とはいえ、縁組を壊しただけでは不十分。アイリスが第二王子派のどこかの家に縁付いたら状況は同じだから、彼女はこちら側の誰かのものにする必要がある。それには侯爵家出身のヨハネスが家格のつり合いから見て一番ふさわしいということ。そうですね、殿下」
ロゼラインの弟のエルフリードがさらに続けて説明した。
自分たちの都合で人の運命を勝手に!
ロゼラインは弟の心ない言動ににわずかに残っていた肉親の情すら、きれいさっぱりと消えつつあるのを感じた。
彼らの「談笑」はさらに続いた。
「弟のゼフィーロと破談になった時点でアイリスは『キズモノ』同然となるからな。キズモノになった女をキズモノにした男が責任を取って結婚するよう計らおうとしてやっているのだから、思いやりのある措置と言っていいと思わないかい?」
パリス王太子が笑いながら部屋の者たちに同意を求めた。
確かに、などといって手を叩く若造たち。
場の腐り具合にロゼラインは反吐が出そうだった。
そんななか、また弟のエルフリードが言う。
「まあ、ノルドベルク家でも釣り合いが取れないわけではないが、今うちは不詳の姉の喪に服しているからあまり派手な動きができません。面倒な役を押し付けて悪いと思ってますよ、ヨハネス」
不詳?
悪かったわね!
それに何なの、アイリスの意志を無視して無理やり結婚話進めるのが面倒ごと?
わが弟ながら愛想も小想も尽き果てる!
ロゼラインが心の中で吐き捨てていた途中、ヨハネスが口を開いた。
「見た目は悪くないし、おとなしそうな女だからどうにでもできるだろう。キズモノを娶ってやるのだから、俺の言うことには絶対逆らわせないようにするし、愛妾を持つのだって文句は言わせないつもりさ、こっちに損はない話だから別にかまわないよ」
おいおい、今からモラハラ及び浮気三昧の宣言か?
このくされ外道どもがっ!
すでに死んだ身ゆえ現世への執着もなくなりかけていたところだが、こんな連中を放置して傷ついたり苦しんだりする人が増えてゆくのが忌々しい!
とはいえ、身体すらない状態でどうすればいいのか?
ロゼラインの魂はもがいた。
すると頭の中にある声が響いた。
「復讐したいか?」
ロゼラインは虚空を見回した。
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