第45話 ベッドの上で

「おやすみ」

「おやすみなさい」


 結局寝るまではテレビを見たりスマホを見たりして時間を潰した。ちょうどいい感じのバラエティもやってたし。

 神奈が客室に入ったのを確認してから、俺は自室へと戻った。ほっと安心して、体から力が抜ける。なんだかんだ今までずっと、緊張していた。


「それにしても何があったんだよ……」


 もしあの写真通りのことを神奈がやっていたのだとしたら、こんなに落ち込むことはないはずだ。言い方は悪いが自業自得――いや、それは事情を何も考慮していない良くない言葉か。


「自分からそういうのやるタイプじゃないし……」


 そう呟いてから俺はあることを思い出した。ゲームの情報だ。

 確か神奈の秘密はメイドカフェだけでなく、裏アカもあったはず。それに関してもひとつイベントがあって、主人公と揉めて和解していたはずだ。


「それは誰かに強制されてとかではなく、自分で作ったんだもんな……」


 じゃあ、写真も本当? でも……


「だーっ、考えても仕方ない。もう寝るかぁ」


 こればっかりは神奈の口から聞かないと……

 部屋の電気を落とし、布団にくるまる。今日はかなりインパクトの強いことがあったし、疲れた。すぐに寝れるだろうな、と思い、目を瞑った。




 ガチャり、と控えめにドアが開く音で、目を開く。

 神奈か……?


 半分寝かけていたせいか、頭が覚醒しきらない。


「……錦小路くん、起きてる?」


 小さく紡がれたその声は、俺が寝ているかどうか探っているようだった。体感だけど、寝室に入ってから15分くらい経っている気がする。

 目的はさっぱり分からないが、とりあえず俺は返事した。


「起きてるけど」

「ほ、ほんと……?」

「うん。ほんと」


 神奈はおそるおそるといった様子で近づいてくると、そっと俺のベッドの上に乗り込んだ。

 えっ、ほんとにどういうつもりだ……?


「ねぇ、錦小路くん」

「ん?」

「あの、さ」


 その先に彼女が耳元で囁いた言葉に、俺の頭は一気に覚醒した。


 ――シない?


 何を、なんて聞かなくても分かる。

 こんな薄暗い部屋で、しかも夜で、年頃の男女2人……きっと合っているかの確信はないけど、分かる。


 でも、なんで?

 なんで急に、神奈はそんなことを言い出した?


 呆気にとられなさすぎて何も言えずにいると、神奈は肯定と受け取ったらしい。

 するすると近づいてきて、かけられていた布団をそっとまくり上げた。俺の上に乗り上げる。

 最初からそのつもりだったのか下着しか身につけていない。

 太ももの柔らかな感触が直接伝わり、全身がブワッと一気に熱くなった。


「佐々木……?」


 神奈が俺の頬に手を触れる。ひんやりしていて、柔らかいその手。だんだんと近づくその距離に心臓が高鳴る。

 もしや、このまま……


「錦小路くん。わたし、結構スタイルいい方だと思うの。クラスの男子たちに噂されてるのも知ってるし、それにあの写真も本当じゃない。今までシたことなんてないから、初めてだよ。だから……」

「佐々木」

「わたし、錦小路くんと一緒にいたい。一緒にいたいから、ねぇ……錦小路くんさえ良ければ」


ーーシよう?


 一瞬、目を瞑った。あまりの色気と儚さとあと質感に、くらりとする。

 しかし、学校にいる時の明るい神奈の姿が脳裏に浮かび上がった。


「佐々木……っ!」


 俺は彼女の肩を掴んだ。驚いたように、神奈がビクッと震える。

 彼女の下着姿は、予想通り綺麗だった。

 胸も大きいけど均整が取れているし、全体的に細いけど、でも細すぎることもない。ちょうどいい感じに脂肪も筋肉も付いていて、本当にグラビアアイドルか? ってレベル。いや、それ以上。

 まぁ、一言で言うとドチャクソエロい。


 それを逃してしまったという気持ちが何となくありながら、それでも俺は自分の体を起こした。

 ちょうど神奈に向き合う形になる。

 そして、ベッド下に落ちていた布団を彼女の肩にそっと巻いた。


「……大丈夫? 無理しないで」


 今までの会話を思い出しつつ、俺は呟いた。神奈は、少し目を見開いた。

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