第43話 チャーハンを神奈と食べる

 チャーハンも無事出来上がり、付け合わせの野菜とともに俺はテーブルに運んだ。神奈はまだ勝手が分からないからという理由で、先にテーブルについてもらっている。


「一応完成しました。どうぞ!」


 わざと明るい調子で彼女の前に皿を置く。


「いいにおいする」

「さっきも言ってたよな。そんなにか?」

「うん。なんか、……懐かしい、においがする」


 目を細めている神奈が思い出しているのは、昔の記憶なのだろうか。作ってもらったという、有り合わせのチャーハン。

 

 自分の分も運び、神奈の向かいに座る。1人暮らしなのに椅子が2つもあったのが、こんなところで役に立つとは思わなかった。


「じゃあ、いただきます」

「いただきます」


 2人で手を合わせ、食べ始める。

 神奈は一口口に含み、そしてそのまま――静止した。


「えっと、もしかしてまずかった?」


 虚無の表情のままほんの少しだけ口を動かす彼女の姿を見て、不安になって尋ねる。

 けれど神奈はただ黙って首を振った。そしてガツガツと残りを口に押し込み始める。


 それから、唐突に顔をゆがめた。


「久しぶりに作ったし、まずかったら全然残してもらっていいからね!」


 慌ててそう言うが、神奈はまだ首を横に振り、チャーハンを食べ続ける。


「すごく、美味しい」


 俺が気が気でない状態でもそもそ食べていたところ、神奈はそう呟いた。思わずスプーンんを皿に置く。


「えっ、マジで。無理してない?」

「最初から無理なんてしてない。美味しいと思ってた。だって……」

「だって?」

「だって、久しぶりにこんなご飯、食べたんだもん」


 そこで俺は理解したのだ。

 彼女は不味くて顔を顰めていたのではなく、おそらく――


「それなら、良かった」


 たぶん、泣きそうになっていたのだ。

 ゲーム情報では、彼女は親に小さい頃から冷たく当たられていた、とある。有り合わせのチャーハンが思い出の料理になっているのにも、そういう背景があるのだろう。


「錦小路くん、本当にありがとう。わたしは何を、返したらいい?」

「いや、お返しとか俺なんも考えてなかったし。事情は知らないけど、何か辛いことがあったんだろ? うーん、だから……佐々木が元気になってくれたら嬉しいかな」

「それだけでいいの? 本当に?」

「うん。それにこういうことって、見返りを求めてすることじゃないと思うし」

「そっ……か」


 俯いた神奈の瞳が寂しげに翳る。えっ、なんでだ? 何を失敗した?


「じゃあ、錦小路くんは、誰にでもこういうことする?」

「まぁ、家に上げるのは信用ある人じゃないとしないけど。よっぽどの理由があるなら、また別かもしれないけどさ」

「そっ……か」


 神奈はなぜか、ぎこちなく笑った。

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