第40話 公園にいる少女
朝の事件からちょくちょく神奈の方は伺っているのだが、やっぱり女子たちはよそよそしかった。それに、昼休みになってもまだ騒ぎは収まっていない。噂話は続いているし、教師たちも何か勘づているようだった。
「あっ、佐々木さん、呼ばれたな」
いつも弁当を食べる階段まで歩いていると、ふと成田が呟いた。確かに、放送がかかっている。
「あの件かなぁ」
「だろうな」
神奈は派手とは言えど普段は優等生だし、それ以外に考えられない。
「大変なことになっちゃったよなぁ。佐々木さんもなんであんなことに手を出したんだ」
「まぁ、なんか理由はあったんだろうけど、じゃないとしないだろ……ってか、佐々木が理由なしにするとは思えないし」
「それはそうだな。でもあんなところ撮影されるなんて、何があったんだ?」
「うーん。可能性としてあるのは、うちのクラスのカップルがラブホに来た時、たまたま佐々木さんがいて写真を撮ったとか」
「それが一番確かか。にしても、そんなカップルがいたとしたら悪趣味すぎるだろ」
「それな」
はぁ、っとため息をつく。
たしか原作ではここまでひどいことになってなかった。神奈はただ単にメイドカフェで働いたのがバレただけで、もちろん援助交際なんてしていない。
バイトが親に禁止されていたから家でかなり怒られ、居づらくなって一時的に主人公の家に居候する、という回だけだったはずだ。
成田と会話しつつ弁当を食べている間も神奈のことが頭から離れない。それは成田も同じなようで、時々上の空になっている。
昼休みが終わり、神奈は何事もなかったかのような顔で教室に戻ってきていた。
放課後。急な夕立に帰り道を急ぐ。
そんな中、見つけた。見つけてしまった。
今日俺はたまたま、傘を持ってきていた。折り畳み傘だ。
つまりは傘を持ってきているから、濡れてない。今は夏とはいえ、雨に濡れたらきっと寒いだろうな。実際前に雨に濡れてびしょ濡れになったことがあるけど、本当に寒かった。
「佐々木」
傘を傾ける、神奈がゆらりと顔を上げる。
涙こそ流していないものの、今にも泣きそうな顔をしていた。
俺の家からそこそこ近い公園――俺も通学路として通る公園のベンチに、神奈が座っていた。たぶん、学校から近いけど、そんなに人はいないここに来たんだろうな。野宿するためか、それとも1人になりたかったからか……
「寒いだろ。そのままじゃ風邪ひくぞ」
「あ、あぁ、うん」
そのまままた、俯いてしまう。
当たり前だけどいつものように明るい調子じゃないし……ゲームでは病んでる描写もわりとあったけど、あれは選択肢があったからな……
俺のままで、こういう状態に向き合うのが初めてで、緊張する。
慎重に、慎重にと頭の中で唱えていれば、ふふっと急に神奈が笑った。
「こんな状況、久しぶりだね。遠足の時以来」
「お、おぉ。そうだな」
あまりに急なことに、呆気に取られる。おかしそうに少しの間くすくす笑ったあと、神奈はまた無表情に戻り、俯いた。
「家に、帰ったりは……」
「知ってて言ってるんだったら、錦小路くんは相当意地悪なんだね」
「そっ……か」
どうしようもない空気が流れる。
この後どうしよう。ただ声を掛けただけなんて、人として腐ってる。
ほんとは神奈と、あまり関わらない方がいいんだろうな。だってヒロインと関わってたら、死亡フラグは増すだけだから
でも。
「佐々木、うちに来ない? 1人暮らしだから、俺以外に人もいない。このまま一晩ここで過ごすわけにはいかないだろ」
「えっ、でもそんなの、錦小路くんに悪いよ」
「悪いかどうかとか今は考えないで。とにかくここにずっといたら、風邪ひくし、絶対危ないから。家に帰れないんだったらうちに来な。何もしないから」
神奈は黙っている。
これでもし断られたら、俺はどうしたらいいんだろう。
神奈には今俺以外に頼れる人はいないはずだ。でも、ここでずっと過ごさせるわけにもいかない。1人暮らしの俺がダメなら、成田なんかもっとダメだろうし。
「家に、行かせてください。錦小路くんの、家に」
しばらくしてから発せられたその返事を聞いて、俺は胸を撫でおろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます