第37話 ゲームセンター②

1回目。さっきの綾芽の真似をしてやってみるけど、上手くいかない。


「うーん。わりとやり方はあってるはずなんだけどな」

「実はクレーンゲームにはコツというものがあってですね。この場合、ここを引っかけると」


 綾芽が隣から手を添え、一緒にボタンを押す。えええ、ちょっと待って、距離近すぎない……てかなんか髪からめっちゃいい匂いするんですけど!?


「ほら、上手くいきましたよね?」

「う、うん」


 綾芽の言う通り手を動かすと、ちゃんとぬいぐるみは取れた。取れたけど……

 やっぱ距離近いし、俺の好きな女の子だったってこともあって、なんかもう余計に心臓が……


「す、すごいね花野井さん。クレーンゲーム、ほんとに得意なんだ」

「はい! Ytubeで動画を見たりして勉強しましたからね。得意です」


 綾芽はドヤ顔で笑う。うーん、可愛い。手に持ってるぬいぐるみの相乗効果もあってなおさら。しかも、綾芽はゲームの中でお淑やかで癒し系というタイプだったから、こんな表情を見れるのが新鮮でたまらない。


「えっ、あれ俺も1回見たことあるけど、めっちゃムズそうだったじゃん」

「えへへ。練習もしましたからね。弟たちに取ってあげたりとか、あとはバイトでお金も稼ぎましたし」

「へぇ~、そうなんだ。めっちゃ頑張ったんだね。すごい」

「そ、そうですかね……? そんなに褒められると照れますね」


 綾芽にそんな趣味があったなんて知らなかった。俺は原作を何度もやりこんでるし、色んなルートを試したから分かる。絶対にそんなこと書いてなかった。

 やっぱり原作とは違うことがこっちで起きてるのか、それとも主人公が全然ヒロインのことを見てなかったのか……まぁ、後者に関しては俺にも言えることなんだけどな。


「実はゲームセンターに友達と行ったのも初めてだったんですよ」

「えっ、そうなの。てっきり女の子とは行ってたのかと」

「いえ。この趣味を友達に話したこともありません。実は私、わりとワイルドなこととか、子供っぽいことが好きで。周りの友達はみんな女の子らしいことが好きなので、あまり話したことがなく……」

「そうだったんだ」


 だから主人公も知らなかったのかな。たぶん綾芽にとって、主人公は最初から結ばれる相手だった、というか、男子として意識していたから。まぁ。わりと最初の方にやることやってたしな。俺は友達だから明かしてくれたのかもしれない。

 ……となれば、モブとしていけるんじゃね?


「だから、これは私が初めて友達に秘密を明かしたことによる記念品です!」


 そうやってぬいぐるみを大事そうに持って微笑む綾芽は、本当に可愛かった。

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