第29話 気づかれていた

 学校からの帰り道、成田と並んで歩く。

 神奈はメイドの仕事があるみたいで、先に帰った。


「それにしても、才田すごかったよなぁ」


 今日の出来事を思い出し、ぼんやりと呟く。前世を含めても、片手には収まるくらいの強烈な出来事だった。

 結局才田は先生に事情聴取され、かなり怒られたようだ。停学とかになったのか、それとも罰はなかったのかは知らない。一応殴りかけたとはいえ。未遂だしな。それよりも彼は、今後教室にいることの方がしんどくなるだろう。ある意味、可哀そうだと言えばそうだ。

 

「だなぁ。まさかあんなこと言われると思ってなかったし」

「ほんと。正直手が出そうになった瞬間は何回もあった」

「俺も物陰から見ててハラハラしてたよ。いつか殴るんじゃないかと思って」

「ははっ。俺そんな物騒に見えるっけ」

「確かに見えないなぁ。だって楓、今まで1回も人殴ったことないだろ」

「へ……?」


 成田の言葉に思わず立ち止まる。

 今、なんて言った?


「えっと、それは」

「楓。俺、なんで楓のこと、錦小路から呼び名を変えたと思う?」

「いや、それはもちろん、前より仲良くなったからじゃ」

「それはそうだけどさ……前の関係はどう考えてもいびつだったし。でも、そんなんじゃないよ。錦小路のままだったら、錦小路って呼んでたと思う」

「それじゃ、俺が高校に入ってから変わったとか……?」

「まぁ、近いかな。高校に入ってから実際錦小路は変わったし、いや、変わったっていうか……」


 成田が言葉を探すように黙った。

 この先言われるかもしれないことを想定して、心臓がバクバクと音を立てる。

 いや、ありえない。そんなはずはない。確かに無理やり感はあったけど、そんなこと普通気づかれるわけは……


「楓、錦小路じゃないだろ」


 全身が、髪の毛の1本1本まで凍ったかと思った。そのくらい、一瞬にして動かなくなった。


「はは。なんの冗談だよ。俺は錦小路 楓だ」

「ずっと傍で見てたから分かる。絶対に錦小路じゃない」

「いや、それは……」

「ただの勘でしかないけど、本当に分かるんだ。どんな言い訳しても俺には通じない」


 成田の目は真剣だった。たぶん本気だ。

 しばらく考えて、俺は心を決めた。

 息を吸うと、少し強張っていた体から力が抜ける。


「分かった。その……俺は確かに、錦小路 楓じゃない。俺は急にこの世界に来た、錦小路楓とはなんの縁もない人だ」

「やっぱりな。錦小路がそんな急に心入れ替えるわけないと思った」


 成田は微笑む。

 でも、まさか……気づいてるとは思わなかったな。

 考えているうちに、1つの疑問が浮かび上がる。


「なぁ、1つ聞いてもいいか」


 尋ねると、成田は頷いた。


「とりあえず、近くの公園行こうか。そこでベンチに座って話そう」

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