第27話 元主人公との対峙②

 才田は黙っていたが、しばらくして顔を上げた。挑戦的に微笑んでいる。開き直ったようだ。


「あぁそうだよ。俺は真犯人を知ってる。だって……」

 

「犯人は俺だから」


 予想通りか。

 分かってはいたことだけど、まるで何も知らなかったかのような顔をする。

 

「才田……お前……」

「俺の自作自演だよ。でもそれにしても、本当に面白かったなぁ。だって誰も錦小路のこと信じないんだもん。そんだけ人望がないってことだよな。ってあぁ、錦小路の子分だけは信じてたんだっけ。成田とかいう錦小路の同類。アイツも馬鹿だよな。悪いやつに憧れてるのかもしれないけど、そんなおこちゃまな思想持ってるせいで、みんなに嫌われてるんだから」

「成田は今の話に関係ないだろ」

「関係あるないっていうか、心底軽蔑するよねって話。普通に考えてさ、そんな属性嫌われるにきまってるじゃん。なのに憧れるってことはさ、それだけ精神年齢が低いってことだろうし、それだけ頭悪いってことじゃん。そんな頭悪い理想を描いて、ほんと気持ち悪い」


 成田のことを馬鹿にされて、猛烈に腹が立つ。

 だって俺が急に変わっても、傍にいてくれた。最初はただ俺に興味とか憧れがあって近づこうとしただけだったとしても、今は絶対に違う思いを持って、でもそれを黙って傍にいてくれている。

 こんなすごい人、なかなかいないだろ。


 今すぐ殴りたいくらいだけど、そんなことしたら俺が不利になることは間違いない。成田も協力してくれてるんだ。できるだけこの作戦は成功させたい。

 

「……とにかく、その話はやめろ。それで? なんで俺にそんなことしたんだ」

「答えは簡単だよ。お前が俺の女をとったからだ」

「俺が? なんだそれ。そんな覚えないんだけど」


 もしかして中学時代の話か? でも才田は、高校から入学していたはず。

 それに錦小路は人の彼女を奪い取ることだけはしなかった……はずだけど。

 しかし才田は全く思いあたりがなさそうな俺の表情を見て腹が立ったのか、急に逆上し始めた。


「覚えがないわけないだろ! さんざんたぶらかしておいて」

「たぶらかすも何も、本気で分からないんだって。一体誰なんだよ」

「神奈ちゃんだよ。遠足の時、2人になるように図っただろ」

「……はぁ? あれは単に迷子になっただけで、図ったなんて言いがかりにも程がある」

「迷子になったこと自体が問題なんだよ。その迷子も、わざとだっただろ」

「わざと迷子になるなんて班の人に迷惑かけることするわけないじゃん。それはお前の妄想だ」

「そんなわけないでしょ。妄想なんてこと、俺がするわけない。俺と神奈ちゃんは、本当に心が通じあってるんだよ。それをお前が、無理やり……神奈ちゃんも、お前なんかと話すの嫌なはずなのに。それなのにあんな笑顔をサービスするなんて、ほんと天使だよな」


 神奈のことを思い出したのか、才田がはぁ、とうっとりため息をつく。

 まさかゲーム内の神奈との接点がこんなところで回収されるとは思わなかった。才田がこんなヤバイやつだとも思わなかったし。ていうかこの世界、ストーカー多すぎないか?

 

「なんかよく知らないけどさ、過度な恋愛感情は、ろくなこと引き起こさないからやめた方がいいぞ」

「過度? なに言ってんの? さっきも言ったように、俺と神奈ちゃんは心が通じ合ってるから、これは正しい愛情だよ」


 才田は本気で、自分の言っていることが正しいと信じているようだ。

 でもそれにしても……神奈は絶対そんなこと思ってないだろうし、今聞きながら一体どう思ってるかは分からないけど。好意を抱いてるわけじゃないだろうし。才田も運が悪いというか、なんというか。


「とにかく、才田がやったんなら後生こんな真似はやめてくれ。俺も今は、他の人に誠実な対応を心がけてるつもりだ」

「はぁ? なんでやめないといけないんだよ」

「佐々木との距離が近すぎると感じたなら謝る。だからもう、しないで。俺以外の人に迷惑がかかることもあるんだ」

「えー、錦小路、お前大したことなかったんだな。前は教室中のやつをいじめて回るくらいの胆力はあったのにさ」

「大人な対応を心がけているんだ。そっちも同じ土俵に立ってくれないか」

「同じ土俵に立つのはそっちだろ。人の女をたぶらかして。気持ち悪い以外の何物でもないよ。俺は当然のことをしたまでだし、お前は当然のことをされたまでだ。そもそも……お前みたいなクズは、生きてる価値なんてないんだよ」


 すごい暴言が火の玉ストレートで飛んでくる。

 こんなことになるなんて思わなかったな。

 

「だから才田、お前もう少し大人になれって。今後何もしないんだったら、誰にも言わないから」

「錦小路が人に言ったところで効果なんてないだろ」

「つまりやめないと?」

「やめるかもしれない。それは今後のお前の行動による。まぁ、どうしたってお前は信用を勝ち取れないし、周りにもゴミみたいなやつしかいないから、意味ないと思うけどな?」

 

 どうやらこれ以上言っても無駄らしい。じゃあもうクラスで録音を晒すまでだ。そう思ってため息をついた瞬間だった。


「じゃあゴミのわたしが、みんなに教えてあげようか」


 完全に怒り狂った佐々木が物陰から出てきたのは。



【あとがき】

 はい。完全に修羅場です。

 ラブコメなのにこんなに修羅場になってすみません。しかしこのざまぁと修羅場も、次回かその次で終わる予定です。そのあとは錦小路(中身)くんのハラハラドキドキの甘々ラブコメが始まる予定なので、また楽しみにお待ちください……!

 いつも読んでいただいて本当にありがとうございます!!

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