第26話 元主人公との対峙①

 昼休み。意を決して主人公に声をかける。

 マジで緊張しすぎて、5回は深呼吸したし、人の字飲んだ。

 まぁ、そんなことしても緊張するのには変わらないんだけどさ。


「ごめん、今からちょっと時間ある?」

「時間? あるけど……急だね」

「それはマジでごめん。けど1個聞きたいことがあってさ」

「……何?」

「えっっと、あの、それが教室じゃ聞きにくくてさ、体育館裏まで来てほしんだけど

 、いける?」

「いける」


 やけに従順だな、才田。

 なんでだ? もっと手こずるっていうか、時間かかると思ってた。


「じゃ、じゃあ、ちょっと来てもらって」

「分かった」


 才田が俺に続いて歩き出す。物事が上手く行き過ぎて逆に不安だ。そもそも才田の思惑ってなんだ?

 俺を敵対視してるんだったら、普通抵抗するはずなんだけど。

 互いに無言のまま歩いていると、ほどなくして体育館裏に着いた。マジで人生で1番気まずい時間だったかもしれない。

 事前の打ち合わせで決めた場所に立って、主人公を誘導する。


「それで、話なんだけどさ」

「うん」

「才田の体操服の件で」

「あっ、あれかぁ。そっか」

「ごめん、こんなことを言うのはあれなんだけどさ、本当に申し訳ないとは思うんだけど、その」

「な、なに」

「あれやったの、俺じゃないんだ」


 高鳴る心臓を抱えたまま、言葉を紡ぐ。

 一応作戦では、才田のカッとなりやすいだろう性格を狙って、挑発するような話し方を心がけることにしていた。


「えっと……」

「才田にこんなこと言うのすごく失礼だって分かってる。でも、これだけは言わせて。俺じゃない」

「そっ、そっっか」

「それでさ、1つ聞きたいんだけど、今まで俺たち喋ったりしたこともないよな」

「ま、まぁない、けど……」

「そうだよな。なのになんで、あんな噂が広まってるんだろう……」

「は、はぁ……」


 才田は、困ったような顔をしていた。

 

「才田、何か知らない?」

「えっ、俺?」

「あっ、でも、昔俺が何かやったやつの仕業かもしれない。そしたら巻き込んでマジでごめん」

「いや、そんな」

「でも、ほんと誰なんだろうなぁ」

「そ、その、昔に恨みを買った人とかに心当たりはないの?」

「あぁ、でもそれにしてもさ、自分からそんなことするなんて馬鹿だと思わない?」

「えっ、えっと?」


 才田の顔つきが急に変わる。


 よし、かかった。

 

「だって考えてみろよ? すぐに自分だってバレるじゃん。そんなこと自分からするやつ、相当馬鹿だと思うんだよね」

「そう、かなぁ? 現にバレてないわけなんだしさ、馬鹿じゃないと思うけど」

「えー、でも、俺、既に候補いるんだよね。そいつらに聞いてみようかな」

「そんなこと聞いても黙るだけじゃないかな。答えてもいいことないじゃん。それとも脅迫する気?」

「そうかもな。でも、脅迫しなかったとしても、いくらでも方法あるから」

「脅迫以外の方法って何。錦小路くんこそ馬鹿なんじゃないの。考えたら、こんなにすぐ分かること」

「あぁそうだ俺は馬鹿だよ。でも学年では成績1番なんだけどな、才田より上……とか言っても、そんな変わらないか。1番と2番じゃ。点数にして29点だけだもんな」


 急いで頭を回す。

 錦小路になってから、幸運なことに、頭の回転はだいぶ速くなった。

 煽って、煽って、とにかく煽って。こうなったらどっちが悪いのか分からない。


「テストとか関係なくない? だって普通に気づいてないもん、錦小路くんは。真犯人が誰か。俺とは違って」

「じゃあ、才田は知ってるのかよ」

「えっ」

「知ってるのか? 才田は。真犯人を」


 サーっと、才田の顔が青ざめていった。

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