第14話 実力テストの結果発表

さっきから廊下を歩く人の数が多い……気がする。

 俺たちが今昼ごはんを食べているのは屋上につながる階段だけど、ここまで歩く音が聞こえてくるのは相当だろう。


「今日ってなんかあったけ?」

「お前先生の話聞いてなかったの?」


 成田が呆れたような顔をする。時間はかかったけど、どうにか新しい俺を受け入れてくれたらしい。口調も前より砕けたし、怖がる様子もなくなった。


「あー、うん。聞いてなかったかも……」

って真面目なのに、大事なところ聞いてないよな」

「そうかな」

「そうだよ。ちなみに今日は実力テストの順位の発表日だ」

「あぁ~。確かにそんなこと言ってた気もする」


 うっすら記憶にある。


「まぁお前なら確実1位だし気にする必要ないだろうけど。しかも今回は勉強してたんだろ?」

「してたけど。高校からの生徒も入ってきてるからどうなるか……」

「えぇ、だってテストほぼ100点じゃん」

「まぁな……」


 とは言いつつ、原作では主人公に負けるんだけどな。そこが錦小路が主人公を嫌う要素の1つだったりする。


「どうする? 食べ終わったらすぐ見に行く?」

「そうだなぁ。まぁ、一応気になるし」

「てか楓ってなんで毎日こんなところで飯食べてるんだ?」

「あぁ、それは……その、絶対に見つかりたくない女がいてさ」

「はぁ!? またやらかしたのかよ。最近大人しかったのに」

「やらかしたっていうか、まぁ……」


 やらかしたと言えばやらかしたんだけどさ……入学式の日に。

 あの日から俺は、綾芽に見つからないように学校で生活している。そもそもあんなクサいセリフ吐いて去ったのも今から思えば恥ずかしいし、第一に見つかったら終わりな気がしているし。

 それこそ、今はあまり関わりがないとはいえ、ただでさえ神奈との遠足でモブとして生きられていない気がするのに。

 ヒロイン2人と関わるとか自ら死亡フラグ掴みにいってるようなもんだろ。


「ふーん。まぁここ人いなくていいんだけどさ」

「マジでありがとう、俊一しゅんいち。俺は感謝してもしきれないよ」

「別にそれはいいけど……楓も変わったよな。なんか前の楓と話してるけど違う奴と話してるみたいなんだよなぁ」

「そうかなぁ。自分では自覚ないや」


 内心冷や汗をかきつつ答える。

そういえば俊一というのは成田の下の名前だ。

 

「ま、前より話しやすくなったけど」

「そう?」

「そうだよ」


 ほっと息を吐いた。マイナスなイメージになってないんだったらいいや。


「弁当食べ終わったけどどうする? 見に行く?」

「そうだな……そろそろ行くか」


 昼ごはんを片付けて、順位が発表されているところまで向かう。みんなはもう見終わって、教室に戻っていってるようだ。これだったら綾芽にも遭遇しないだろうな。


「生徒あんまりいないからいいな。1位は……やっぱり楓か」

「マジか。やったな」

「俺は……おっ、半分くらいにいるな。今回勉強してたし」


 元々錦小路は地頭が良かったんだろう。あと高校2回目っていうチートもあったからか、勉強はスムーズに進んだ。今までの錦小路は夜中にコソコソ家で勉強していただけっていうのもあると思うし。

 成田は遊ぶ頻度が少なくなったから、しっかり勉強していたようだ。


「2位は……ふーん。知らない奴だ。高校からの奴か」

「そうだな」


 2位は主人公だった。俺が転生したことによって原作にも変化が生じたらしい。


「まぁ、これ以上見ても仕方ないしな。戻るか〜」

「そうだな。あっ、そうだ。学食の唐揚げ買っていい? ちょっと腹減った」

「楓パンしか食べないからな。俺も食べたいし、行くか」


 食堂へと歩き出した瞬間だった。


「やっぱご飯食べてからの方が人少なくていいねー」

「今回初めてのテストだもんね。なんか見るの緊張するなぁ」


 女子数人がやってきた。どうやら俺たちと同じ考えの人たちがいたらしい。


「うーん、私何位かなぁ……あっ、あった。45位だ。なんか微妙だなぁ」

「私32位。凪月なつきは?」

「なつき、最下位だ……」


 絶望するような声が聞こえてくる。そういえば、この声……

 それになつきという名前。勉強において学年最下位であるいうこと。

 覚えがある。いや、覚えしかない。


「えーちょっとそれはヤバくない?」

「さすがにヤバいかな」

「ヤバいっしょ」


 俺はそっと振り返った。

 やっぱり――

 順位表の前にいたのは、明るい茶髪をポニーテールにしている落ち込んだ顔をした少女。

 この物語の最後のヒロイン、朝比奈 凪月あさひな なつきだ。

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