第13話 なんだかんだ良かったかも
「ねぇねぇ錦小路くん。見てあの綿菓子! ウサギの形してる! かわいい~」
ソフトクリームを食べた後、俺たちは店を見て回っていた。出店とか屋台とかがあるエリアだ。ここら辺は本当に美味しそうな店が多くて、1つ1つに目を奪われる。
「ん~でもさっき甘いもの食べたからなぁ。次しょっぱい系食べたいかも。でも甘いものも捨てがたい……」
たしかゲームの設定では、神奈は甘いものが大好物だったはず。てことは、俺を気遣ってくれたのかな。
「そうだなぁ。何食べる?」
尋ねると、神奈はんー、と首を捻った。
「錦小路くん食べたいものある?」
「うーん。あっ」
「なになに?」
「いや、焼きそば美味しそうだなぁと思って」
「ほんとだ。最近食べてなかったなぁ」
この世界に来てから、1度も食べてなかったんだよな。前世では大好物だったのに、すっかり忘れていた。
「よし。食べよっか」
「えっ、いいの?」
「いいのも何もわたしも食べたいし。さっきわたしが食べたいもの食べてもらったじゃん。あの焼きそば、美味しそうだよね~」
そう言いながら、早足で屋台まで歩く。
2人で焼きそばを買って、近くのベンチに腰掛ける。
「んっ。これ美味しい!」
「ほんとだ。上手いな。屋台の焼きそばって妙に美味いよな」
「ね。小学校の時の夏祭り以来だなぁ、わたし」
「俺もそれくらいかも」
「こういうのってたまに食べるから美味しいよね」
「そうだな。うん。マジで美味い」
あとこういうのは外のベンチとかで食べるからいいんだよな。
「さっきパスタとソフトクリーム食べたのにまた焼きそば食べてる自分が怖いよ……」
「はは。今日だけで摂取カロリーヤバそうだよなぁ」
マジで高校生の体で良かった。高校生だったら代謝が高いからどうにかカロリー消費できるだろうし。
「ねっ、次どこ行く?」
「そうだなぁ。そのままブラブラするか?」
「いいねぇ。屋台そこそこ出てるし、まだまだ美味しいものもいっぱいあるし」
「だなぁ。にしても、今日は祭りか何かなのか?」
「うーん、分かんないけど、近くに神社あるみたい」
「なるほどな」
前世ではそれなりに大きい神社が家の近所にあったから分かる。定期的に大きめの祭りを開催したりするんだよな、こういうとこ。それが遠足と被ってしまったらしい。
「アイドルのライブもあったみたいだし、すごい日に遠足なっちゃったね」
「ヤバイよなぁ。そりゃこんだけ人が多いわけだ」
「わたしたち以外にも迷子になっちゃった子いるかも」
「さっきはすごい人混みだったもんな」
喋っていると、いつの間にか食べ終わっていた。
焼きそばの容器をゴミ箱に捨て、また歩き出す。
食べ物系の屋台はいつの間にか消えていて、今度は遊び系というか、金魚すくいとかのあるエリアになった。子どもたちの数がさっきより増えている。
「射的だって! やってみていい?」
「うん。俺もやろうかな」
「よし。一緒にやろう。あのぬいぐるみ狙ってみる」
神奈がぬいぐるみ目がけて銃を構える。
3回撃ってみるが、全部外れていた。
「やっぱ難しいなぁ」
「俺次やってみていい?」
「うん。頑張って!」
神奈が欲しいと言っていたぬいぐるみに向けて割りばし製の銃を構える。
なんか錦小路になってから集中力が段違いなんだよな。さてはこいつ、ハイスペックだっただろ。普段生活していても、運動能力とかの違いを感じる。
狙いをつけて撃つと、1回でぬいぐるみを落とすことができた。
「えっ、1回で! 錦小路くんすごすぎない!?」
「そうかな。ありがとう」
「そうだよ! 中学の時も体育でずっと学年1位じゃなかったっけ」
「あぁ、いや、まぁ、筋トレしてるからかな」
錦小路、そんなに運動神経良かったんだ……いや、逆にそんだけ運動神経良かったから、悪い意味でみんなの頂点でいられたんだろうな。
ぬいぐるみを受け取って神奈に渡す。
「えっ……?」
「そのためにとったからさ」
「えー。マジ? ありがとう。嬉しいんだけど……さすがに受け取れないよ」
「でも俺が持ってても困るから」
はい、と押し付けるように渡すと、神奈は渋々受け取った。
「本当にいいの?」
「うん。どうぞ」
「ありがとう……大事にするね」
そう言って、神奈がぬいぐるみをリュックにしまい込む。
「やっぱり錦小路くんって、女の人の扱いっていうか、女の人慣れしてるよね」
「そうか?」
「ピンポイントで嬉しいことしてくれるし、それに、中学の頃から女子大生の人とかと付き合ったりしてたじゃん。校門まで来てるの、わたし見たよ」
たしかに原作では錦小路はヤリチンのクズでもあったわけだ。
女の人にはたしかに慣れているのかも……って今は俺が中身なはずなんだけど。
もしかしてさ、錦小路の記憶に影響受けてたりする? 前世ではこんな行動、できなかった気がするし。それなのに今無意識にやってたし。
だとしたらちょっと怖すぎる。
「まぁ、付き合ったりもしてたけど」
「でしょー? あっ、ちょっと待って。そろそろ時間かも」
「ほんとだ。もう終わりか」
いつの間にか終了の時間になっていたようだ。あっという間で気づかなかった。
元々終わったときに集合するように言われていた場所に2人で行き、解散する。山田と木戸もいて、謝ることもできた。
「じゃ、また明日学校でね」
神奈が手を振ってくる。振り返すとニッコリ笑った。
……今日の行動が安全だったかは分からないけど、いい一日だったかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます