第9話 まさか自分が……
「あー楽しかったー」
「マジで綺麗だったな」
「ね。水族館て、子どものときより今の方が楽しいかも」
「あっ、それ分かる。どこの海か、とかが分かるもんね」
2時間ほどかけて水族館を巡り終わった。いやぁ、ほんとに楽しかったな。
たまーに木戸と話したり、水槽をじっくり見たり……
「次は、お昼ごはん食べにいこっか。パスタの美味しいお店調べといたんだよね」
「おっ、ありがとう佐々木」
前回の会議でパスタを食べることになっていたんだけど、まさか店まで調べておいてくれたとは……雰囲気的には、当日どこか美味しいイタリアンのお店は入れたらいいねくらいだったのに。こういう気遣いのできるところがやっぱモテるんだろうな。
「錦小路くん、楽しい?」
いつの間にか隣に来ていた神奈にふと尋ねられて戸惑う。
「うん。めちゃくちゃ楽しいよ」
「じゃあ良かったー! 錦小路くんて意外と喋らないタイプなんだね」
「いや、まぁ。うん」
「わたしさぁ、錦小路くんと同じクラスになったことなくてさ、だからあんまり知らなくて……でも楽しかったなら良かったー。わたしがたくさん案とか出しちゃったからさ、すっごく嬉しいな」
そうか。神奈とは今まで接点なかったんだ……良かった。ちょっと安心した。まさか中学の時同じクラスだったら……とか、考えるだけで怖すぎる。
にしても明るい神奈、あざといな。
「ほんとに楽しいよ。案出してくれてありがとう」
よし。今のところいい感じなのでは?
神奈にもあまり強く印象づけられていないはず……!
「そんなそんな。でも次のお店は期待しておいて? 口コミ4.6のお店だから」
「そんなお店あるんだ」
「うん。写真でもすごく美味しそうだったんだよね」
「楽しみだなぁ」
神奈はニコニコしている。
「あっ、もうすぐだって」
スマホの道案内を見た神奈が声を上げた。
「マジ? やった。腹減ってたんだよな」
「ちょうどお昼時だもんねー」
前を並んでいた2人が歓声を上げた。
ふと思い出した。
ゲーム内のイベントで、この遠足ってあったはず。
たしか神奈と錦小路が同じ班で……そうだ。錦小路が神奈を班から連れ出すんだ。そこを主人公が通りがかって、救出する。そんな流れだった。
女の子を2人も取られた錦小路は当然激昂するし、嫌がらせも加速する。で、のちの展開に繋がっていくんだ。
今の錦小路は俺なわけで、だから連れ去るなんてことはしない。となれば、この遠足は平穏に終わるはず。
よし。大丈夫だ。死亡フラグは着々と回避されていっている……!
「……なんて言ってた過去の自分が恨めしいなぁ」
俺はスマホを片手にため息をついた。
「まさか自分が迷子になるとは思わなかった」
あの後みんなで美味しくご飯を食べた……ところまでは良かった。
次の行き先がたしか有名な観光地だった。だけど途中で人の波に巻き込まれてしまい、班の人たちとはぐれてしまったのだ。しかも、自分が今どこの場所にいるか分からない。電話番号、1人も知らないしな……
ぼんやり考えていると、携帯が振動した。電話だ。
「もしもし、佐々木?」
「あっ、錦小路くん? 急に電話してごめんね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます