第8話 遠足当日、とりあえずいい感じ
遠足当日。
現地に向かうと、既に全員いた。
「ごめん。待たせて」
「いや、オレ今来たところだから」
木戸が答える。木戸はゲーム世界ではモブの男子生徒だ。
「えーっとまずは水族館でしょ? まっすぐ行くだけだよね」
「そうだな。じゃあ、行こうか」
神奈の一言でみんなで歩き出す。
「意外に人いるね」
「そうだねー。他の学校の遠足とも被ったのかな? 他に制服の子たちいる」
「そうみたい。あと一般の観光客の人も多いな」
「今日なんかあったっけ」
「あっ、イベントやってるみたい。それでだ。こんなに多いの」
「どんなイベント?」
「んーっとね。アイドルが近くのショッピングモールで踊るみたい。だからこっちにも人多いのかな」
「絶対それだね! こんなにたくさんだったら迷子になりそう」
「確かに迷子は気を付けないとな」
おっ、いい感じに会話が弾んでいる。
俺は何も話せてないけど、みんなが楽しんでくれたら十分だ。
そう。成田と話した時から俺なりに考えたんだ。
まず、もう一度悪役みたいになるのは最悪。でも、だからと言って今までのことを帳消しにして、普通な感じで他の人に絡むのもそれはそれで失礼。
ということで、結果的に成田以外の人たちとは必要最低限しか話さない、ということにした。成田は最近の俺に慣れてくれたみたいだし、あいつさえいればぼっちってことにはならないからな。ありがとう、成田。俺はお前に救われたぜ。
「けっこう歩くね」
「そうだね。サイトには、駅からすぐって書いてあったけど」
「まぁでも、徒歩何分ってのは、だいたい少なめに書いてあるからな」
「それもそうだね。って、あれじゃない? 水族館」
「おっ、本当だ」
みんなの会話を聞きながら歩いていたら、今日1つ目の目的地に着いたようだ。
水族館のロゴが建物の陰から見えてきた。
受付で券を買い、中に入る。
一歩先に進めばそこには幻想的な空間が広がっていた。
「うわぁ、綺麗」
「ほんとだ。水族館なんて久しぶり!」
俺も水族館は久しぶりだ。ほんとにいつぶりだろう。高校の修学旅行が沖縄だったから、それが最後な気がする。
「ねっ、あの魚すごくかわいくない?」
「ねー。あっ、あっちのも綺麗な色してる」
神奈も楽しそうにはしゃいでいる。良かったよ、こんな姿が見れて。原作ではほんと、病んでるところの方が多かったからな。
「えっと、錦小路……?」
「なに?」
急に話しかけられてびっくりした。隣を見れば木戸が少しテンション高めな顔をしている。
「いや、あのさ。なんか錦小路って思ってたのと違うなって思って」
「えっ、そう?」
「ほらその……なんかケガしてたりとかしてたじゃん。オレ高校からだから中学の人とかあんま知らなくてさ。だからなんか勝手な偏見あったんだけど……怖いやつじゃなかったなって」
「そっか。ありがとう」
少しぶっきらぼうな返しになってしまったけど、これくらいでいいだろう。
でも木戸が高校組からの人で良かった。中学も一緒なやつは、過去に錦小路が何してるか分からないからな。
「ねぇ、木戸くん。錦小路くん。次のブース行くよ!」
神奈から声がかけられる。
話している間に見終わってしまったらしい。
俺と木戸は彼女たちに続いて次の水槽の前へと行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます