第三幕 最終決戦

第12話 バトラ

 ‌――怪獣警報!怪獣警報!

 ‌防衛隊員は直ちに手動準備せよ!


「今度の怪獣は今までよりも凶暴そうじゃ。怪獣名デストロイア。‌倒さなければ被害は甚大なものになるじゃろう。頼んだぞ!」


 ‌――肉弾戦で勝てるように日々組手の訓練をしたんだ。

 ‌死んで行ったみんなの分、私が街を守るんだ……。





 怪獣が発生した場所へ着くと、既に街は半壊していた。

 ‌街を破壊した元凶は悠々と街の中でまだ壊れていない建物を粉々にしていた。


 ‌――暴れまわりやがって……。


「おい、止まれ!」


 ‌すぐに怪獣化してデストロイアに詰寄る。

 ‌後ろから掴みかかろうとすると、恐ろしい顔をしてこちらを睨んできた。

 ‌そして、デストロイアの口元が光ったかと思うと、目にも止まらぬ早さで光線を出し顔の横を通り抜けていった。

 ‌相手の動きに集中していたおかげで間一髪避けることができた。


 ‌――危ない。


 ‌間一髪で避けたが、当たっていたら頭は無くなっていただろう……。



「ちきしょう……。今度はこっちからだ!」

 ‌

 ‌肉弾戦で戦うと決めて、毎日練習してきた突きを出す。

 ‌しかし突きは空を切り、タイミングよくカウンターを入れられて、逆にこちらが倒された。



 ‌――こんなわけが無い。

 ‌おっさんが怪獣化した日から、熟練者に混じって毎日毎日訓練したんだ。

 ‌街を破壊する怪獣を拳で倒せるように……。


 ‌2度目も3度目も拳を突くが全く当たらず、反撃されて倒されてしまう。


 ‌こちらの攻撃が無かったかのように、デストロイアは余裕のある雰囲気で街を壊し続けている。



「やめろって言ってんだろ!」


 ‌勢いをつけて倒しにかかった所で、デストロイアは口から光線を放ってきた。


 ‌避けきれず胸の中心で光線を受けた。

 ‌黒く覆われた皮膚はただれ、色が変わってしまった。

 ‌


 ‌……熱い……、尋常じゃない強さだ……。

 ‌街を壊す片手間で相手して、この強さ……。

 ‌こんな奴に勝てるのか……。


 ‌……くっ。考えてる場合じゃない、

 ‌勝たなければ……。

 ‌いくら理想を掲げたところで、勝った方が正義だ。

 ‌光線を出すしか無い……。

 ‌倒すことが第一……。

 ‌犠牲が出てしまってもしょうがない……。

 


 ‌街を壊すデストロイアの顔目掛けて思い切って光線を吐いた。

 ‌真っ直ぐ空を飛んでいき、デストロイアの顔に命中した。

 ‌デストロイアは煙に包まれた。



 ‌――どうだ。

 ‌私の今持っている最高の攻撃だ。


 ‌

 ‌攻撃後、しばらくして煙が晴れると無傷のデストロイヤーが立っていた。


 ‌――なんだと……。

 ‌これで倒せないのか……。


 ‌――結局のところ力こそ正義なのか。

 ‌勝つことが全て……。


 ‌一瞬やられていった仲間の顔が頭をよぎった。

 ‌せめて生き延びないと……。


 ‌後ろを振り返り逃げようとすると、そこには別の怪獣が道を塞いでいた。


 ‌空を飛んでいる。

 ‌大きな蛾の怪獣だ。


 ‌怪獣は2匹目もいたのか……。

 ‌ここで気を抜いてはダメだ。なんとしてでも生きるんだ。


 ‌立ちはだかる蛾の怪獣との間合いを詰める。

 そして、‌渾身の右ストレートを繰り出す。



 ‌しかし、蛾の怪獣は拳から数ミリの所で顔を横にずらして、避けられた。


 ‌ニヤッと笑うのが見えた。


 ‌蛾の怪獣は飛びながら、私の顔面目掛けて頭突きをするように猛スピードで近づいてきた。


 ‌先程放った渾身のパンチのおかげで、体の重心が前のめりになっている。

 ‌踏み込みすぎたのか、体制が切り替えられない。



 ‌……ダメだ、避けられない。


 ‌観念して目を瞑る。




「……おい、何を迷ってる?」



 ‌……聞き覚えのある声……。



「――お前の正義はなんだ? ‌俺の正義は友達・・を守ることだ」


 ‌目を開けると目の前に蛾の怪獣のヘッドバットが寸止め・・・されていた。


 ‌――その声、正義感、丸い目……。


 ‌自然と涙が溢れてきた。



「覚えてるよな? ‌俺だよ桃州ももすだよ」


 ‌――もちろん覚えてる……。

 ‌――ずっと会いたかった……。



「訳あって蛾の怪獣になっちまったんだ。副長官曰く、怪獣名はモスラ・・・じゃなくてバトラ・・・って言うらしい。今度副長官説得して命名変えるの手伝ってくれよ」


 ‌私は桃州ももすに会えたことの嬉しさから、思わず抱きついていた。


「おい、泣くなって。お前も空飛べる怪獣が良かったのか? ‌お前はゴジラが似合ってるぜ」



「……感動の再会に何言ってるんだよ……うっせぇな! ‌分かってんだよ!……お前、デリカシーのないところは相変わらずだな! ‌空なんて飛びたくねえよ!」



「なんだよ、デリカシーって? ‌まあいいか。副長官からの伝言だ」


 ‌桃州ももすはあらたまって話し出した。



「怪獣は作り出せる・・・・・。逆もまた然り。怪獣を元の人間に戻せる。との事だ」



「……なに? ‌あいつも元は人間なのか……?」


「そうだ。怪獣は全て元は人間なんだ。副長官は怪獣化の原因を突き止めつつある。この薬を身体に取り込めば一時的にだが元に戻るらしい」


「倒さなくても、元に戻せるのか……?」


「単純にエネルギーを使い切れば元に戻るが、あいつのエネルギー量は尋常じゃない。日本壊滅させても、暴れてるだろう。だからこの薬を吸わせる」


「そんな方法があるのか……」


「……お前、散々一人で悩んでたろ。どれが本当の正義とかじゃねえよ。どれもその人にとっての正義なんだ」


 ‌桃州ももすは振り返ってデストロイアの方を向いた。

 ‌デストロイアはこちらを一切気にせず、街を破壊している。

 ‌桃州ももすはデストロイアに苛立っているのが感じ取れた。



「この薬が副長官の正義だ。沢山の犠牲の元、ようやくこの答えにたどり着いたんだとよ。……残念ながらお前も俺も、その他に怪獣細胞を取り込んだ防衛隊員はこの薬のための研究に利用されてたようだ……」


 ‌後ろを向いてしまった桃州ももすの表情が見えず、怒ってるのかどうかは分からなかった。


「それを踏まえてあらためて聞く。お前の正義はなんだ?」


 ‌――答えはもう決まっている。


「私は、全てを救いたい。敵も味方も含めて全部。……もちろん私や桃州ももす自身の犠牲も出さずに!」


 ‌――お前に教えられたんだ。暴力は悪だって……。

 ‌

「怪獣であっても、どうにかして全員助けるのが正義だ! ‌怪獣は殺したいと思っていたが、それじゃあダメなんだ。怪獣だって生きている。アイツらも人間だとしたら、誰かにとって大切な人だったりすんじゃないか? ‌もう誰も悲しませたくない!」




「……あと、自己犠牲でもダメなんだ……。それだと自分が救われないんだ……。毎日毎日なんで私だけが生き延びたのかが分からなかった……。怪獣を倒しても倒しても罪の意識が溜まっていって……。桃州ももすが生きててくれて本当に良かった。……それだけで救われた……」


 ‌桃州ももすの後ろ姿がとても頼り見えた。


「……よし!それがお前の正義なら力を貸す!」

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