第11話 メカキングギドラ

 教官の言っていた通り、‌訓練のメニューが変わった。

 ‌もっと強い熟練者の中に交じるようになった。

 今日は‌40歳位のおっさんが相手だ。


「よろしくお願いします」


「お手柔らかに」



 相手が誰だろうと‌手加減なしに突っ込んでいく。

 ‌日々の鬱憤を晴らすように、ひたすら拳を突き出す。

 ‌身体のキレはいつにも増して良い。

 ‌体重移動もスムーズだ。


 ‌――シュッシュッ!


 ‌だが、全ての攻撃が見透かされているようで、1発足りとも当たらない。


 ‌ここまで力の差が出るとは思わなかった。

 ‌熟練者に混じると全然歯が立たなかった。


 こちらの攻撃の切れ目に‌相手からの反撃として顔面に向けてパンチが飛んでくる。


 ‌――避けれない。


 相手からの拳を顔面に受け、尻もちを着いて倒れた。

 ‌そこで勝負は着いた。



「まだまだだな。もっと力をつけろ」


「おっさん中々やるな……。どんな訓練しているんだ?」


「俺は毎日休まず訓練している。ちょうどお前ぐらいの子供がいるんだ。子供を守るために頑張ってるんだよ。お前もいつか分かるはずだ……」


 ‌尻を着いている倒れれている私に手を差し出してきた。


「……お前も怪獣だろ、光線だけに頼らず接近戦も鍛えろ――」



 ‌――お前も・・・



「おっさん、なんでそれを知っているんだ……」


「怪獣細胞の研究が進んで、前線で戦っているような防衛隊員にも摂取するようになったんだ」


 ‌私を立たせると続けて話してくれた。


「選ばれたごく一部だけだけどな。あとは、瀕死の隊員の一命を取り留める為に打ってるらしい。怪我の早期回復が見込めるらしい」


 ‌おっさんが服をめくり、腹の傷跡を見せてくれた。

 ‌既に治っているように見えた。


「俺も最近傷の治りが早いんだ。まだ研究中で副作用もあまり分かっていないらしいから安心してはいけ……な……い……」



「……どうしたんだおっさん?」


 いきなり‌おっさんが唸りだし、おっさんの身体が巨大化し始めた。

 怪獣細胞は、怒りの‌感情で変身するんじゃないのか……。


 巨大化した足で‌訓練所の壁を壊し、胴体は天井を尽きぬけはるか高くにあった。



「怪獣細胞の反応があった! ‌大丈夫か! ‌木戸きど……」


 ‌副長官が急いでやってきたが、もう手遅れだった。


後白ごしろ、変身しろ。あいつを倒すんじゃ! ‌このままじゃ防衛隊員が全滅してしまう……」



「……でも……。おいオッサン! お前には‌守るものがあるんだろ! ‌元に戻れよ! ‌子供はどうするんだ! ‌愛する人との子だろ!」


 ‌言うことを聞かず、1歩踏み出し訓練所をさらに壊した。

 ‌おっさん、理性が飛んでやがる……。



「そいつはもうダメじゃ! ‌怪獣に飲み込まれとる! ‌犠牲は付き物じゃ! ‌今やらねば大勢が死ぬぞ!」


 ‌――犠牲か……。

 ‌私が悪者になれば全て済むのかもしれない……。

 ‌おっさんを殺してしまったらどうなるんだ……。

 ‌私はなんのために戦っているんだ……。


 ‌――皆のために戦っているんだ……

 ‌おっさんだって家族や家族の住む街を守るために戦ってたんだ……。


 ――‌光線は使わないで倒す。

 ‌‌私も怪獣に変身した。



 ‌さっきの組手では大敗したが、今のおっさんは理性無く暴れてるだけだ。


 ‌相手の動きを見極めるんだ。

 ‌呼吸、筋肉の動き、全身どの部位にも注意を払うんだ。

 ‌美尾びお先輩に教わったんだ。

 ‌相手の動きを見る。

 ‌

 ‌こちらを向いた。

 ‌左足を前に出し、右手を振りかぶって真っ直ぐ出してくる。


 ‌単純な動きだ。

 顔面目掛けて‌来た拳を‌紙一重で避ける。

 ‌桃州ももすもこんな動きをしていたな……。


 ‌避けたあと、おっさんの顔面目掛けて拳を繰り出す。

 ‌おっさん、戻ってくれ――。


 ‌拳を振り抜いた。

 ‌おっさんの身体を支えていて足が浮かび上がった。

 ‌顔面を支点として一回転して、‌後頭部から地面に落ちた。


 ‌気を失ったおっさんは、みるみる小さくなっていった。

 ‌無事に人間に戻ったが、顔面がへこんでいる……。



 ‌殺さずに済んだのだろうか……。

 ‌今の一撃はやばかったか……。

 ‌確実に‌止めるためには、こうしなければいけなかった……。

 

「救急隊を呼べ!早く治療するぞ!」


 ‌……私は一体なんのために……。


 

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