第10話 モゲラ
街の被害は大きかった。
10年前の怪獣騒動に匹敵するくらいの被害が出ていた。
この街に住んでいない人々は、初めて怪獣を倒せたことに歓喜しているが、この街に実際住む人々にとっては街が破壊されたことを嘆き悲しんでいた。
「犠牲はやむを得ないものじゃ。よくやってくれた。勝った方が正義じゃ」
戦いの後、副長官に保護されて研究室へと戻ってきた。
怪獣に変身した際のデータを取るのであろう。
研究室に着くと直ぐに身体検査をされている。
血液採取や心電図等検査が次々と行われていく。
その間、部屋のモニターに怪獣のニュースが流れていた。
ニュースには破壊された街が映され、コメンテーターが好き勝手喋っている。
モニター越しに見える街の被害は思ったよりも大きい。
それはそうだ。結局は
「……ゴジラなんていない方が良かったんじゃないか……?」
街を壊してしまったら、憎んでいた怪獣と同じじゃないか……。
アイツらは悪だ……。
私も同じ悪ではないか……。
「大丈夫じゃ。言いたいやつには言わせておけ。お前は正しいことをしているんじゃ。あそこで怪獣を倒していなければ、1つの街だけでなく多くの街が壊滅していたじゃろう」
そうは言ってもこれは、これが追い求めていた正義なのだろうか……。
――現地の様子を映していたニュースに怪獣が見えた。
「……あれは、ガイガン……」
壊された街の中に
「アイツは
「
出動することに戸惑っていると、研究室に若い男がやってきた。
「副長官、俺が行こう。怪獣細胞はまだあるんだろ?俺に打ってくれ」
――男には怪獣名「モゲラ」が割りあてられた。
◇
真っ直ぐにどこまでも建物が無く、遠くにある山の麓が綺麗に見えた。
先程自分がやってしまった結果だ――。
怪獣細胞を取り込んだ若者と一緒に現場へ出動してきた。
「お前、怪獣細胞なんて取り込んで良かったのか……?」
隊員とは馴れ合わないようにしてるが、どうしても聞きたくなった。
「誰かがやらないと、大勢の人間が死んでしまうからな……」
「……お前の名前はなんて言うだ……?」
「名乗る程の者じゃない……行くぞ、ガイガンが見えてきた」
――
怪獣を目の前にすると怒りが湧いてくるのだが、今は街を破壊することへの恐怖の方が強い。
前の時のように怪獣には変身されない……。
「迷いがあるお前には無理だな。俺があいつを殺す」
そういうと男はみるみるうちに身体が大きくなり怪獣化した。
「凄い……。これが怪獣化……。怪獣モゲラ……」
怪獣化が完了したモゲラはガイガンに向かって進み出す。
「ガイガン……殺す……」
ガイガンはこちらの様子に気づいたようで、いきなり目からビームを出してきた。
モゲラは一瞬後ろを振り向くと、決心したような表情で足を踏ん張った。
モゲラはビームを避けずに受け止めた。
眩いビームがモゲラを襲った。
右肩から腹付近まで大きく身体が焼け焦げていく。
――モゲラは後ろの街を守った。
――自己犠牲。
ガイガンからのビームを受け切ると、モゲラからはビームは出さずに、走ってガイガンの元へ近づく。
距離が詰まると、思い切り左手でガイガンの顔へパンチを入れた。
モゲラは間髪入れずにパンチを連打する。
ガイガンも負けじと手を出し、足を出し、目からビームも出してきた。
ビームが放たれる度、モゲラは自らの身体で受け止めた。
数分間攻防は続いたかと思うと、ガイガンの動きが止まった。
力尽きて倒れそうになるガイガンをモゲラは受け止めた。
モゲラもまた動きが止まり、2匹の怪獣は立ち尽くす形で動かなくなった。
どちらも相打ちで死んでしまったようだった。
動かなくなった怪獣の様子から、街の人々から歓声が上がった
「やったぞ!怪獣が倒されたぞ!」
「怖かったよー」
「救われた」
「助けに来てくれた怪獣のおかげだ!」
「街を守った真のヒーローだ!」
街の皆は幸せそうだ。
誰もがモゲラを称えた。
――名前さえ知らない野郎が街が救った……。
そして、怪獣を倒すのと引き換えに自分自身も死んでしまってる……。
……自己犠牲。
これが正義のあり方……。
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