第9話 ファイヤーラドン

 ‌怪獣に備えて組手の訓練を行う。


 ‌通常は1体1で戦うのに大して、10対1で戦う。

 ‌私に特別に用意された訓練メニューだ。


 ‌怪獣細胞を体内に取り込んでから身体には何も変化がない。

 ‌ただ、心はやけに落ち着いている。


 ‌10人が私を取り囲み、それぞれの方向から攻撃を繰り出してくる。


 ‌前から来たパンチを避ける。

 ‌反撃として相手の眉間ギリギリでパンチを寸止めする。


 ‌後ろから蹴りが来る。

 ‌それも横にズレて避けて、相手の腹に蹴りを寸止めする。


 ‌――全然物足りない。


 ‌10人全員の攻撃を全て避けて、反撃の寸止めを返した。



「そこまでだ!」


 ‌教官が組手終わりを宣言する。


「新人達が相手じゃ物足りないかもな。後白ごしろ用に新しいメニューを考えておくかだ――」



 ‌――怪獣警報!怪獣警報!

 ‌防衛隊員は直ちに手動準備せよ!


「全員出動準備!」


「はい!」




 「今回の怪獣は翼竜タイプだ。通称ラドン」


 ‌――高校を破壊したアイツだ。

 ‌気持ちよさそうに街の上空を飛び回ってやがる。


 ‌怪獣を前にしても恐怖は無く、ただただ胸が高なった。


 ‌――ラドン、お前を殺したかったんだよ。

 ‌桃州ももすの仇。



 ‌――ラドンを見た途端、身体中が熱い。

 ‌戦闘前の高揚感とは何かが違う。

 ‌心臓の音がだんだん強くなる。


 身体中の‌関節が痛い。熱い。

 ‌バキバキと音を立てながら足が膨れ上がり、目線が高くなっていく。

 ‌二階建ての上の階の窓と目線があったかと思うと、直ぐに屋根を見下ろす程目線が上がった。

 ‌低層のマンション等はすぐ超えて、高層マンションと肩を並べるほどになった。



「ギャーーーオーーー!!」



 ‌唸り声が響いた。


 ‌――これは私の声か?

 ‌本当に怪獣になっちまってるな……。


 皮膚が硬化したのか、体の表面には‌黒色の鱗が敷き詰められている。

 体は‌太い足によって支えられ、足の先の爪は鋭く長い。

 ‌一歩踏み出そうとすると、アスファルトにヒビが入った。

 ‌そばにいた隊員達が逃げ惑う姿が見える。


 ‌……私は怪獣だ。

 ‌……それでも良い、‌アイツを殺す!


 ‌ラドンに向けた怒りによって身体中が光ったかと思うと、口から一直線に光線が出てきた。


 青白く‌輝く光線は、ラドンへ向かう。

 ‌しかし、空を飛んでいたラドンには当たらずに空の彼方へと光線は飛んで行った。

 光線に気づいた‌ラドンは逃げるように地面へと着陸した。



 ‌……殺す。


 ‌再び身体中が光り口から光線が今にも出そうだ。

 目標は‌地上にいるラドン。


 ‌自分とラドンを一直線に結ぶように、光線を吐き出す。


 ‌眩く光る光線。

 ‌周りの景観を一切気にしない、ネオン街のようなギラギラとした光。


‌ ‌光線はラドンにたどり着くまでにある建物を気にせず破壊しながら進んでいく。


 高層マンション、‌オフィスビル、百貨店、学校、光線はそれらを飲み込みながら進んでいく。


 ‌街を破壊していった光線はラドンに命中した。

 ‌‌そして、ラドンの体を貫いた。


 ‌光線の勢いは止まらずに、ラドンの奥にあった街をも飲み込んで進んで行った。


 ‌マンション、病院、駅ビル、光線は進む方向にある全てを飲み込み、視界から見えなくなるまで進んで行った。


 やったぞ。‌

 ‌怪獣ラドンを殺せた……。

 ‌桃州ももす、仇は取ったぞ……。





 ――‌気づくと、元の人間の姿に戻っていた。

 ‌辺りには怪獣に襲撃されたの時と同じく、瓦礫が溢れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る