第8話 メカゴジラ

後白ごしろさくら、貴殿の功績を称える」


 2匹の怪獣によって‌街は破壊されてしまったが、過去の襲撃に比べると被害は極めて少なかった。

 ‌防衛隊の内部で今回の怪獣騒動の貢献者に対しての表彰式が行われている。


「不自由のない住まい、今後一切の生活を保証しよう。それだけの功績だ。お前は街を守ったのだ。誇って良い」


 ‌眩い光に当てられたステージ上で、長官が表彰状を差し出す。

 ‌

 こちらも‌手を差し出せば、功績を受け取れる。

 この表彰は‌防衛隊の仲間から見れば誇れることだろう。



 ‌会場にはパイプ椅子が並べられており、防衛隊員達が式の様子を見守っている。

 ‌席は入隊順になっているのであろう。

 ‌ステージからは熟練者の顔がよく見える。

 ‌誇らしい顔でこちらを見ている。



 ‌後ろの席の方に新人がいる。

 ‌自分と同じタイミングで入隊した隊員、その少し前に入隊した隊員も並んでいるのが見える。

 ‌組手で一緒に練習している仲間達だ。



 ‌その中に美尾びお先輩の姿はいなかった――。



「……おい、早く受け取れ!」


 ‌……こんなものはいらない……。

 ‌こんなものの為に戦ったんじゃない。

 ‌こんなものをもらってもアイツらは倒せない。


 ‌……アイツらを殺したい。

 ‌……アイツらを殺す力が欲しい……。



「どうした、その顔は? ‌褒美が不服か? ‌そうしたら、何か別の褒美を考えよう。言ってみるが良い。許可する」


 ‌拒まれるとは予想していなかった長官は困惑した表情を浮かべている。


「……配属を変えて欲しい。怪獣を討伐する最前線の部隊へ入れろ」


 ‌会場には聞こえない程の声。


「ふむ? ‌変わった奴だ。一番危険な最前線へ行きたいのだな? ‌まだ怪獣が倒し足りないか? ‌それでも良いが……」


「……長官、私に考えがあります」


 長官の‌隣にいた副長官は、私を見定めるような視線を向けてきた。



「熱い気持ちを持つ者よ。怪獣を倒す力が欲しいか?」


 考えるまでも無かった。‌

 ‌副長官に促され仕方なく表彰状を受け取ると、副長官に案内されるがまま研究所へと向かった。





「ここは怪獣を研究している施設じゃ。」


 ‌案内された部屋には、今まで出現した怪獣の模型や皮膚の標本が並べられている。

 ‌……見ているだけで吐き気がする。


「そんなに怪獣が憎いと思っているのか?」


 当たり前の質問に苛立ち副長官を睨む。


「……うむ。よろしい。ここに怪獣細胞・・・・がある。怪獣の皮膚や血液から採取した細胞情報から作られたものじゃ。これを身体に取り入れることで怪獣と同等の力が手に入る」


「怪獣と戦える力……」


「しかし、それはお前自身が怪獣になることと同義じゃ。元の人間として普通の生活を送れるかもわからん。理性を保てるかどうかすら難しい」


「これがあれば怪獣を殺せるのか……?」


「うむ、本能に従って怪獣を倒すと言うことは可能だ。心の底から怪獣を憎むお前が適任だと考える。理性が無くなっても怪獣を倒してくれると考えておる。後戻りはできない、この話を受けるかどうかじっくりと考えてみてほし――」


「やる」


 ‌副長官の話を遮るように答える。


「私がやる。私が怪獣を滅ぼすんだ」





「よし、終わったぞ。元の人間の姿を留めて生きている。まずは成功じゃ」


「……これで怪獣の力が手に入ったのか?」


 見た目も変わっていないが、‌身体になんの変化も感じられない。


「強い感情によって怪獣の力が発揮されるはずじゃ。怪獣と対峙すると自然と現れるだろう。心しておけ。お前はもう人間では無い」


「……上等だ」


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