第7話 ガイガン

 ‌怪獣が動きを止めた隙にバズーカに玉を込める。

 ‌そして、敵が止まる少し前のタイミングで発射する。

 玉は連続して命中する。


「いいわね、さくらさん! ‌慣れてきましたわね!」


「ありがとう、美尾びお先輩! ‌もうコツは掴めたみたいだ! ‌あいつ・・・をぶっ殺してやる!」


 ‌目の前にいる怪獣の動きに全神経を尖らせる。

 ‌動きさえ読めればどうということはない。

 ‌ひたすら打ちまくって、ダメージを与えるんだ。

 ‌怪獣は殺す。

 ‌あいつ・・・さえ――


「――さくらさん! ‌危ない!!」



 ‌いきなり美尾びお先輩から背中を押されて突き飛ばされた。


「いきなり何するんすか、戦場でふざけてる場合じゃ……」



 ‌――後ろから近づいてきた2匹目・・・の怪獣の腕が振り下ろされた。


 ‌――怪獣は2・・いたんだ……。



 ‌先程、私と美尾びお先輩が立っていた場所に怪獣の手が打ち付けられた。

 ‌その衝撃で地面が大きく地面が揺れた。



「……くっ……、美尾びお先輩……」


 ‌凄まじい風圧と共に土煙が舞った。

 ‌辺りは一面土色で覆われて前が見えない。

 ‌怪獣の手の下がどうなっているかも確認できない。


 ‌怪獣が腕をどけた風圧で土煙が徐々に消えていく。


「……おい、何かの間違いだろ……。」


 ‌そこは大きくえぐられた地面が見えた。

 ‌深い穴。

 ‌怪獣の一撃の重さが伝わってくる。



 ‌「……美尾びお先輩……、美尾びお先輩ーーー!!!」


 ‌声は崩れた街中から空へと広がり、遠くへ遠くへ木霊こだまする。

 ‌待てども待てども、美尾びお先輩からの返事は返ってこなかった。



 ‌……現実を認めなくない。

 ‌こんなことあるはずない。

 ‌身体が現実を拒否するように、バズーカを持って走り出していた。



「うぉーーー!」


 ‌バズーカに玉を込めて撃つ。

 ‌何度も何度も何度も何度も。

 ‌バズーカを扱うのが初心者とは思えないほど素早く、同じ動作を繰り返した。



 ‌ドンドンドンドンドン――



 ‌ひたすら玉のある限り打ち続ける。

 バズーカを‌打つことだけしか考えたくない。

 手を止めて‌しまうと、受け止めきれない現実に身も心も殺されてしまう。


 ‌大量に打たれたバズーカを嫌ってか、怪獣達は徐々に退いていく。

 ‌一瞬気を抜いて、バズーカを打つ手が緩んだ。

 ‌手が緩んでしまったコンマ数秒の隙間に、美尾びお先輩の姿が目に浮かんできた。


 ‌……怪獣、美尾びお先輩をどうした。

 ‌どうしてくれたんだ!

 ‌怪獣は必ず殺す。殺す。殺す。


 ‌退いて行く怪獣に向けてひたすら打ち続けた。

 ‌この後手は一切緩めなかった。


 ‌打ち続けた甲斐あって、怪獣は2匹共逃げていった。



 ‌――くっそ……、逃げちまったら殺せない……。


 ‌攻撃が届かない場所まで怪獣が逃げるのを見届けると、すぐに美尾びお先輩が居た場所の瓦礫をどかし始めた。



「おい! ‌美尾びお先輩! ‌生きてるなら返事しろ! ‌美尾びおーー!!」



 ‌――大事なものを守るって言ったよな。

 ‌――死んだら守れないって言ったよな。


 ‌瓦礫をどかしてもどかしても、人影すら見当たらない。



 ――おいおい……。‌あまりに理不尽だろ……。

 ‌なんで正義が殺されなきゃならないんだ……。



 ‌正義ってなんだよ……。

 ‌桃州ももす……。美尾びお先輩……。

 ‌みんな、暴力で殺されちまう……。

 ‌死んじまったら、何にもならねぇよ……。

 ‌大切なものを何も守れない……。


 ……‌力が欲しい……。

 ‌怪獣を殺す力が欲しい……。


 ‌どんなに正しい信念を持ってようが、弱いと殺されちまう。

 ‌弱いやつが言う正義せいぎはただの綺麗事だ……。


 ‌勝った方が正しい正義……。

 ‌最後まで生き抜いた方が正義なんだ……。


 ‌何をしたっていい。

 ‌信じた世界を守る力が欲しい。


 ‌正しい者が死ぬ世界。

 ‌こんな腐った世界をひっくり返せるだけの力が。


「くそっ!! ‌くそっ!!!」


 ‌誰もいない戦場で響く声。


「くそーーーーー!!」

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