第5話 ビオランテ

 ‌防衛隊に入隊すると専用の寮で生活することになる。

 ‌その中でも男女で寮が別れている。


 ‌女性の防衛隊の方に連れられて、‌試験会場のすぐ近くにある寮へとやってきた。

 ‌

 ‌色褪せた外壁には所々亀裂が走っており、一部ツタが張っている。

 ‌窓も曇っており年季を感じる。


 ‌……古臭い建物だ……。


後白ごしろ、お前の部屋はここだ。新人は2人部屋だ」


 ‌望んで入った防衛隊。

 ‌住むところが汚かろうが、2人部屋だろうが我慢する。

 ‌……どんなごつい女が住んでるんだろう……。



「入るぞ!美尾びお!」



 ‌‌――防衛隊がドアを開けると、そこには小柄な美少女がいた。


 小さな顔に大きな目、ゆるふわカールがかかった髪は淡いオリーブ系の色をしている。

 ‌念入りに髪をといているのであろう、とても綺麗であった。


 ‌美少女はキラキラ光る目で私の元へ駆け寄ると、いきなり両手を握ってきた。


後白ごしろさん! ‌かっこよかったです!」


 ‌……は?


「女の人で採用されるのって珍しいですよ!それも、長官にあんな啖呵切ってまで合格されるなんて!……痺れましたわ!」


 ‌ごつい女を想像してたのに、こんな可愛い子が防衛隊……?

 ‌握ってきた手はとても柔らかい。

 小動物のような‌仕草。


 ‌……すごく可愛い……。



「おぉ?早速有名人だな後白ごしろ! ‌これから頑張れよ!」


 ‌……思ってたのと違って、少し拍子抜けしたが、まぁ良いか……。


「私は美尾びお蘭亭らんていと申します。高校三年生です」


 ……‌なんで手を握ったまま自己紹介してんだ……?

 ……‌中々手を離してくれない。



「……私は後白ごしろさくら、高校一年生だ。あんた、年上だったのか。よろしく……お願いします」


「あら? ‌年下だったのですね? ‌それはそれで悪くないですわね……。 ‌美尾びお先輩って呼んでください。うふふふ」


 ……‌可愛いけど、なんか気持ち悪いぞこいつ……。

 ‌……弱そうだし……。

 ‌


「ちょっと気持ち悪いぞ、あんた……。女子高生らしいが、あんたみたいなのがよく合格出来たな防衛隊に?」


 私からの問いかけに、‌美尾びおの目の奥が光るのを感じた。


「私はこう見えても、合気道の達人ですのよ。自分で言うのも恥ずかしいですが。これからよろしくお願いいたします。」





 ‌入隊した次の日。

 ‌防衛隊の訓練の一つである組手のため、試験会場であった体育館へ連れてこられた。


「これから組手をしてもらう。最近は小型の怪獣の目撃例も報告されている。相手を怪獣だと思って望むように!」


 ‌美尾びおとペアか。

 ‌相手が誰だろうと容赦しない。怪獣だと思ってぶっ飛ばしてやる。

 ‌

「手加減しねぇから気をつけろよ!」


 ――右足を前に出し、腰を落として構える。


「どうぞ。よろしくお願いいたします」


 ‌美尾びおは、力を抜いてただ立っているように見せて、隙がない。


 ‌――初めから全力で行く。


 ‌美尾びおの元まで走り、間合いを一気に詰める。

 走ってきたそのままの勢いで左のジャブを繰り出す、というフェイントを入れる。


 美尾びおは、しっかりと左手を目で追っている。


 ‌左手に気を取られている隙に、右から後頭部に向けて強烈な一撃をお見舞する。

 ‌このやり方で、大体のやつは一発でノックアウトしてきた。


「ふふふ。魂胆が見え見えですね。さくらさん」


 美尾びおは、‌後方から来るパンチを少ない動きで避けた。


 ‌――避けられて空を切るパンチ。

 ‌――美尾びおの頭の横を通り過ぎる腕。

 ‌――私は少し体制を崩した。


 ‌美尾びおはそのままの姿勢で、通り過ぎる腕を掴んだ。


「相手の力量を見誤ってはいけませんよ?」


 ‌掴まれた腕を支点として、そのまま身体が一回転した。


 ‌――ドン!


 ‌気付くと天井が見えていた――。


 ‌美尾びおが倒れている私を覗き込んできた。


「気持ちだけで勝てるようであれば苦労はいりません。まだまだ甘いですわよ?」


 ‌……くっそ。上からものを言いやがって……。

 ‌……こいつ、強い……。



「合気道は、相手が暴力を振るってきた時だけ、その力をそのまま返す。暴力を嫌うあなたにぴったりと思うのですが、いかがですか?稽古してさしあげますわよ?」


 ‌――なるほど。

 ‌……それは私の理想とする正義なのかもしれない……。

 ‌暴力を振るう奴だけ、だけを倒す……。



「……美尾びお、あんたの正義って……」


 ‌私の問いかけに、美尾びおの表情が曇った。


「……私の正義なんてたかが知れていますわ。……人間一人だけで出来ることなんて限られています……」


 可愛い女子高生が青春を投げ打ってまで防衛隊に‌入っているんだ。

 ‌過去に何かあったのだろう……。



「……大切なものを守ることですかね……」



 ‌――桃州ももすと同じこと言ってやがる……。



「もう!私の過去には触れないで下さい。後白ごしろさんのエッチ!」


 美尾びお‌は、曇った表情を封じ込めた。

 ‌元の可愛い顔に戻った。


 ‌……笑い顔が可愛いのは反則だな……。


「何がエッチだよ! ‌気になるだろ! ‌教えろよ!」


 ‌倒された体制を立て直して、立ち上がる。


「うふふ。気になるなら、まずは貴女からさらけ出すのが筋ですわよ?」


 美尾びお‌は、不敵な笑いを浮かべた。


「トレーニングの後って、汗を流すために共同風呂へ入るものですの。……うふふ。そのスレンダーな身体をとくと見せてくださいませ?」


 ‌……おいおい、どっちがエッチだよ。



「ふふ、大丈夫です。私は男も女も、どちらもイけるタイプですわよ?自分で言うのも恥ずかしいですが。」


「恥ずかしいなら言うなよ。……私は男の方が好きだ……。」


 ‌……言葉にするって恥ずかしいな……。

 ‌……美尾びおは、やはり変態だ……。


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