第二幕 防衛隊
第4話 キングコング
私の通っていた学校は破壊された。
100人以上が生死不明。
学校以外にも、住んでいた街が丸ごと破壊された。
数万人が死亡したと発表された。
私の家族も漏れなくその中に含まれていた――。
あの時私を瓦礫の中から助けてくれたのは、対怪獣防衛隊という組織らしい。
生き残ったことが確認された生徒が発表されたが、わずか数人だけであった。
……その中に
――私は絶対に怪獣を許さない。
――大切な人を、大切な場所を、大切な時間を壊した怪獣を許さない。
――防衛隊の施設内しか私の居場所は無くなった。
そのまま志願兵となるのは自然の摂理であった。
◇
達筆で「対怪獣防衛隊面接会場」と書かれた厚い木の板が立て掛けられた壁。
防衛隊が訓練で使うと思われる広い屋内。
作りは体育館のようになっており、天井が高く作られている。
教官の大きな声が響き渡る。
「家族や友達が殺されたからって理由だけで防衛隊に入るような甘いヤツには、ここでの任務は務まらない。」
学生、大人、男女関係無く防衛隊に志願して来た人々が並べて立たされている。
その前を大きな声の教官が通っていく。
教官はゆっくり歩きながら、志願した者の顔をまじまじと見ていく。
教官が立ち止まった。
私のちょうど隣にいた女子高生の前。
「……お前はどうして防衛隊に志願した?」
威圧的な態度で教官が尋ねる。
鋭い眼光で女子高生を睨み付ける。
「……私は怪獣に家族を殺されました……」
女子高生は教官に怯えながら答える。
どうしても怪獣が許せないのであろう、怖くても必死に答えている。
――立派な心意気だと思う。
「だからどうした!!」
先程よりも強い口調で教官が怒鳴る。
「そんなやつは何万人、何十万人といる!弱いやつが何人集まろうと犬死するだけだ!!」
教官は目の前にいる相手に大声で怒鳴り散らす。
それは、目の前の相手以外の会場にいる全ての者へ訴えているようであった。
「現実が見えていないやつの正義が正しいなんて事は絶対に無い! お前は間違っている!!」
そう言うと教官は、立った姿勢から右足を体に寄せて力を貯め、目にも止まらぬ動きで目の前にいた女子高生の腹を思い切り蹴った。
女子高生は後ろへ大きく吹っ飛び、後ろに並んでいた男子高生達も一緒になって倒れた。
「……うっ……おぇ……」
女子高生から嗚咽が漏れる。
少し吐瀉物が出た音も聞こえた……。
「……それでも私は怪獣が許せない……」
かすれた声で教官へ訴えかける。
すごい根性だと思う。
「……弱くても、私も戦いたいです……仇を打ちたい……」
気持ちは十分と言うほど伝わってきた。
私も同じ気持ちでここに立っている。
「……ふん。連れて行け。弱いやつはここには要らん。」
教官は女子高生に侮蔑的な目を向けていた。
私は真横にいる教官を睨みつけた。
暴力で実現する正義なんだな、ここにいるやつも……。
「なんだお前、その反抗的な目は? 文句でもあるのか?」
教官は私から目を逸らさず、ゆっくり歩き私の前へとやってきた。
「お前はなんのためにここへ来た?」
私も目を逸らさず、睨みつけながら答える。
「私は怪獣によって、大切な人をなくしました。」
教官の眉間のシワが深くなった。
「話を聞いてなかったか? お前には耳がないのか! 考える頭が無いのか? バカか!! こいつも連れてけ!」
防衛隊員が私の腕を取り、連れていこうと引っ張るが動かない。
「言っても分からんようだな、本当のバカだお前は!」
教官は先程と同じように右足を振り上げて、私の腹目掛けて思い切り蹴りをしてきた。
――ドスン!!
キックの音が部屋に響いた。
私の体制は崩れず、立ち続けた。
「人間にやられるような鍛え方はしていません」
教官を睨むのを止めずに続ける。
「あなた達に、とやかく言われる筋合いはありません。暴力で解決するようなものは悪です。悪は根絶する。」
教官に負けず劣らずの声量を出し、私の声は室内に響いた。
「私は正義のために怪獣を倒し、人間を守る。そう誓ってここへ来ました。私を防衛隊へ入れてください!」
「…ふん。身体だけは鍛えているようだな……」
「教官、こいつはなかなか使えそうです。教官の蹴りを食らってもビクともしないなんて、そんなやつここ数年いなかったですよ」
防衛隊の参謀らしき年配の男性が助言する。
教官の気が変わったのか、少しまゆが緩まった。
「ふん。お前、ここでの訓練はキツイぞ。今までのお前の鍛え方が赤ちゃんに思えるくらい」
「上等だ。怪獣を殺せるならなんだってやってやるよ」
「俺がここの教官兼長官だ。このチームの長。皆からは親しみを込めてキング・コングと呼ばれている」
……ふん、暴力ゴリラめ。
……キックのお返しは今度必ずしてやる。
「我が対へようこそ。お前の入隊を認める。お前の名を言ってみろ!」
威圧的ではく、長官らしく威厳に満ちた声を響かせた。
「
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