第23話 怪我をしました

「ローズ様、昨日の演劇、本当に素晴らしかったですわね。特に最後、男優さんが銃で撃たれて命を落とすシーン、涙なしでは見られませんでしたわ」


「そうでしょう。あの男優さんの名演技、素晴らしいものでしたわ。それにとても素敵な方ですわね。私、後3回は見に行きたいですわ」


今日もお昼ご飯を食べながら、ティーナ様と一緒に昨日の劇の話で盛り上がっている。そう、昨日は4人で劇を見に行ったのだ。ただ…アデル様にチョコチョコ邪魔されたので、今度はゆっくり見たいと思っている。


「後3回って…そんなに同じ劇を見て、面白いものかい?僕は1回で十分だよ。それにあまり人の多い場所に、頻繁にティーナを連れていきたくはないからね。そんなに見たいなら、次は1人で行ってくれ」


すかさず話に入って来たのは、グラス様だ。この男、好き勝手言って!


「まあまあ兄上、あまりローズを虐めないで下さい。ローズ、また見に行きたいなら、僕が付き合うよ」


そう言ってくれたのは、アデル様だ。相変わらず優しいアデル様。きっと社交辞令だろう。


「アデル様はお優しいのですね。ありがとうございます」


とりあえずお礼を言っておいた。


「さあ、食事も終わったし、少し早いけれど、僕は生徒会の打ち合わせがあるんだ。ティーナ、行くよ」


いつもの様に、ティーナ様を連れて行こうとするグラス様。


「グラス様、毎回思うのですが、わざわざティーナ様を連れて行かなくてもいいのではないですか?ここは学院内ですし、それにもう少しティーナ様とお話したいですわ」


すかさずグラス様に抗議の声をあげた。


「グラス、私なら大丈夫よ。アデルもいるし…今日はローズ様たちと一緒にいてはダメかしら?」


恐る恐るティーナ様がグラス様にお伺いを立てている。


「ティーナ、僕に反論する気かい?悪い子だね。でも…まあアデルもいるし、今日だけ特別にローズ嬢と話しをしていてもいいよ。アデル、悪いがティーナを教室まで送ってもらえるだろうか?」


あら?今日は珍しくグラス様が折れたわ。一体どうしたのかしら?


「ローズ嬢、その驚き様はなんだい?僕だって、いつもティーナを縛り付けている訳ではないよ」


私が心底驚いている事に気が付いたのか、グラス様がすかさず反論してきた。それでもグラス様が、ティーナ様を置いて行ってくれるなんて有難い限りだわ。


「グラス様、ありがとうございます。これを機に、極力ティーナ様を自由に…」


「それは出来ないよ!いいかい、今日だけ特別だからね。それじゃあティーナ、行ってくるよ」


ティーナ様の頬に口づけをすると、足早に去って行ったグラス様。


「グラス様が本当にティーナ様を置いていきましたわ。明日槍でも降らないといいのですが…」


快晴の空を見上げながら、ついそんな事を呟いてしまった。


「もう、ローズ様ったら」


そんな私を見たティーナ様が、クスクスと笑っている。その隣で、アデル様も。だって、あのグラス様がティーナ様を置いて行ったのよ。驚くなという方が無理よ。


「さあ、ローズ様、せっかく時間が出来たのです。もう少しお話をしましょう」


「そうですわね。鬼の居ぬ間に色々な話をしないといけませんね。そうだわ、せっかくなので、中庭を散歩しながらお話しませんか?」


「それはいいですわね。そうしましょう」


私の提案に乗ってくれたティーナ様。早速3人で中庭を散歩しながら、ゆっくりお話をする。


中庭ではなぜか男子生徒たちが剣の打ち合いをしていた。


「こんなところで剣の打ち合いをしているのですね。ティーナ様、ここは少し危険です。あっちの方に行きましょうか」


本物の剣で打ち合いをしている為、キーン、キーンという音が聞こえる。そもそも学院の、それも中庭で剣の打ち合いをするなんて…


とにかく早くここから立ち去らないと。そう思い、ティーナ様の手を握った時だった。


「危ない!!」


えっ!


その瞬間、誰かにドンと突き飛ばされる様なそんな感覚に襲われ、目の前には剣が!


さらに視界に入って来たのは、ティーナ様を庇う様にして抱きしめているアデル様の姿。これは一体…


と、次の瞬間、おでこに激痛が走る。さらにおでこから大量に何かが流れている。ゆっくり触れると、真っ赤な血だった。


「ローズ!」


「ローズ様」


真っ青な顔をしたアデル様とティーナ様の姿が。さらに向こうの方から、血相を変えた男性が走って来る。


近くには血の付いた剣が…


あぁ…

そういう事か。

きっと打ち合いをしていた子たちの剣が、何かの拍子にこっちに飛んできて、私のおでこをかすめたのね。そして剣が飛んできている事に気が付いたアデル様が、とっさにティーナ様を庇った…


なるほど…


「ローズ、すまない!大丈夫か?」


「ローズ様…どうか気を確かに…」


真っ青な顔をしたアデル様と、泣きじゃくっているティーナ様が目に入る。周りには人が集まって来た。


あぁ…私、今ティーナ様を悲しませている。そして、アデル様も…


「ティーナ様、アデル様…私は大丈夫ですわ…」


極力笑顔を向けた。でも…ダメだ、頭がボーっとする…

次第に意識が遠のいていき、そしてゆっくりと瞼を閉じたのだった。

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