第24話 僕のせいだ…~アデル視点~

「ローズ、しっかりしてくれ!ローズ」


酷い傷を負っているのに、僕たちに向かってほほ笑んだローズ。そして、ゆっくりと瞼を閉じてしまったのだ。


「ローズ…イヤだ、死なないでくれ!ローズ!」


おでこから大量の血を流し、そのまま意識を失ったローズを抱き起し、必死に名前を呼ぶ。かなり出血しているせいか、顔色も良くない。初めて抱きしめたローズは、温かい…でも、いつこの温もりも消えるか分からない。


このまま彼女が死んでしまったら…

考えただけで、血の気が引いていく。


そんな僕の元にやって来たのは先生だ。


「これはすごい出血だな。とにかく応急処置を。すぐに医務室に運ぼう。それから、病院に搬送する準備を。アデル・グリースティン、彼女は私が運ぼう」


先生がローズを抱きかかえようとした。


「先生、彼女は僕が運びます。とにかく医務室に運びましょう」


ローズを誰にも触られたくない。緊急事態で今はそんな感情をいだいている場合ではない、それはわかっている。でも、どうしても触れられたくなかったのだ。


ローズを抱きかかえ、医務室へと急ぐ。その間も血は止まらない。このまま本当にローズが死んでしまったら…


考えただけで、震えが止まらない。医務室に着くと、すぐに応急処置が施され、そのまま救急搬送された。


僕も一緒に行きたいと伝えたが、ただの恋人(役)の僕が付き添う事は出来ないとの事。


「アデル・グリースティン、君の制服、ローズ・スターレスの血で汚れてしまっているね。今すぐ新しい制服をこちらで準備しよう。すぐに着替えて。それから、少し話を聞きたいから、着替えたら職員室に来てくれ」


僕に制服を渡すと、そのまま去っていく先生。とりあえず渡された制服に着替えた。改めて見たら、僕の制服は血だらけだ。ローズはこんなにも沢山の血を流したのか…


あの時僕が、ローズを庇っていたら…


ティーナとローズが話をしている時、近くで剣の打ち合いをしていた男子生徒たち。剣を振り払った時、勢い余ってこちらに飛んできたのだ。


その時、とっさにティーナを庇ってしまった…でもそのせいで、ローズが…


剣が飛んできた位置から見ても、ティーナの方ではなくローズの方に飛んできていたのに。それなのに僕は、無意識にティーナを庇ってしまったんだ。


僕は一体何をしているんだ…

確かにティーナは大切だ。でもそれ以上に…


自分の不甲斐なさに、どうしようもない苛立ちを覚えた。


「アデル・グリースティン、まだこちらにいたのだね。皆待っていますよ。早く職員室へ」


「はい、分かりました…」


そうだった、職員室に呼ばれているのだった。


急いで職員室に向かう。


「アデル・グリースティン、こっちです」


職員室に着くと、さらに奥の部屋へと案内された。そこには、泣きじゃくるティーナ、そんなティーナに寄り添う兄上、さらに剣の打ち合いをしていた男子生徒2人もいた。


「遅くなって申し訳ございません」


急いで席に付いた。


「それで、一体何があったのですか?どうしてローズ・スターレスはあんな怪我を?」


「それは…」


「俺が悪いんです!俺がこいつの剣を思いっきり振り払った為、勢い余って飛んで行った剣が、彼女の額を傷つけたのです。だから…どうか俺に罰を…」


真っすぐ先生の方を見つめ、そう言ったのは、マイケル・クラステーヌ。兄上やティーナと同じ年の令息だ。でもマイケルだけが悪い訳ではない。


「あなただけが悪い訳ではありません。僕が…ローズの方に剣が飛んできているにもかかわらず、ティーナを庇ったから…僕はローズの恋人なのに…彼女を守れなかった」


たとえ契約だったとしても、僕が守らなければいけなかったのはローズだ。それなのに僕は…


「アデル、君は悪くないよ。僕がティーナを置いて生徒会に行ってしまったのがいけなかったんだ。あの時ティーナを連れて行っていれば、こんな事にはならなかったかもしれない…それから、ティーナを守ってくれて、ありがとう。それよりマイケル、君はどうしてあんなところで剣の打ち合いをしていたんだ。非常識にもほどがある!」


兄上が僕の肩を叩いてそう言うとともに、マイケルに文句を言っている。マイケルは何も言い返せないのか、唇を噛んで悔しそうに俯いていた。


「アデル、私を庇ったばかりに…本当にごめんなさい。ローズ様ね…意識を失う寸前、私の方を見てにっこり笑ったのよ…あれほどまでに出血していたのだから、きっとものすごく痛かったと思うの。それなのに…“私は大丈夫ですわ”て。私たちを安心させようとしたのよ。もしローズ様にもしもの事があったら、私…」


声を出して泣き出してしまったティーナ。そんなティーナを、兄上が抱きしめている。


ティーナの言う通り、あの時ローズは僕たちを安心させようと、必死に笑顔を作っていた。その姿が健気で儚げで…


悔しくて涙がこみ上げてきた。


泣くな!僕に無く権利なんてない。ローズを守れなかった僕に…


「少し落ち着いてくれ。話を聞く限り、どうやらローズ嬢の件は事故という事の様だね。ただ…これからはもっと周りを確認して、剣の打ち合いを行う様に。それから、中庭での剣の打ち合いは禁止しよう。ちょうど午後の授業も終わった様だ。君たちももう帰りなさい」


帰れと言われても…今はとにかく、ローズが心配だ。


「先生、ローズはどこの病院に運ばれたのですか?」


「確かセントクリスティル病院だ」


「セントクリスティル病院ですね、わかりました。兄上、僕は今から病院に向かい、ローズの様子を見に行きます。では、僕はこれで」


「待ってアデル。私も行くわ。お願い、連れて行って!」


「ティーナが行くなら僕も行くよ」


「それじゃあ、3人で行こう。それでは僕たちはこれで失礼いたします」


先生たちに頭を下げると、荷物も持たずに馬車に乗り込んだのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る