第22話 思いがけないアデル様の一面を見れました

ティーナ様のお宅にお邪魔してから、1ヶ月が過ぎた。あの日以降、残念ながらティーナ様と2人で過ごすことは出来ていない。


それにしてもグラス様の器の小ささには心底うんざりなのだが、それでもティーナ様はグラス様がお好きらしい。本人がそれでいいと言っているので、私が口出しする事は出来ない。


それでも4人でなら一緒にいられるので、まあ良しとしよう。


今日もお昼ご飯を4人で一緒に食べている。


「ティーナ様、今街に有名な劇団が来ているのです。先日友人と一緒に見に行きましたが、本当に素敵だったのですよ。せっかくなので、ティーナ様にも見て欲しくて。一緒に見に行きませんか?」


先日カルミアとファリサと3人で、劇を見に行ったのだが、本当に素敵な話だった。だからティーナ様とも一緒に見に行きたいと思ったのだ。


「まあ、演劇ですか?私、演劇って見た事がないのです。ぜひ見に行きたいですわ」


「それなら今日の放課後、早速見に行きましょう。当日券も販売しているので。特に男優さんがとても素敵なのですよ。私、パンフレットを買ってしまいましたもの」


ティーナ様のお兄様も神的に美しかったが、あの男優さんも素敵だった。思い出しただけで、よだれが出そうだわ。


「へぇ~、ローズはその男優さんに興味がある様だね」


なぜか話に入って来たのはアデル様だ。なぜだろう…若干怒っている様な…


「ローズ様が別の殿方のお話をされるものだから、アデルが嫉妬してしまった様ですわよ。それにしても、アデルでも嫉妬するのね」


そう言ってティーナ様が笑っている。


嫉妬?ティーナ様が他の殿方に目を向けたのならわかるが、私が他の殿方の事をよく言ったところで、アデル様が嫉妬する訳がない。ティーナ様は何を言っているのかしら?


意味が分からず、コテンと首をかしげる。


「ローズ嬢はかなり鈍い様だね…これじゃあアデルも大変だな…」


何やらグラス様まで訳の分からない事を言っている。一体皆、どうしたのかしら?


「とにかく今日にでも、演劇を見に行きましょう。グラス、いいでしょう?」


「そうだね。ローズ嬢がそこまで熱をあげる男優も見たいし、せっかくだから行ってみよう。いいだろう?アデル」


「…ええ、僕は構いませんよ」


なんだかよく分からないが、話しはまとまった様だ。


そして放課後、皆で馬車に乗り込み、街へと出る。


「ティーナ様、本当に素敵な劇なのですよ。きっとティーナ様も気に入りますわ」


「ローズ様がそこまでお勧めしてくださるのでしたら、きっと素敵な劇なのでしょうね。なんだか楽しみになってきましたわ」


嬉しそうに笑うティーナ様。きっとアデル様も、こんなティーナ様を見て嬉しそうな顔をしているはず。


そう思い、アデル様の方を向いたのだが…

なぜか私の方をジト目で睨んでいた。


「あの…アデル様、どうされましたか?」


「…いいや…何でもないよ…そろそろ会場に着きそうだよ」


ポツリとそう呟いたアデル様。なんだかご機嫌斜めな様だ。いつもティーナ様が笑っていると、アデル様も嬉しそうな顔をしているのに…一体どうしたのかしら?


気を取り直して、会場へと向かった。当日券を買い、そのまま会場の中に入る。


「結構混んでいますね。4人で座れるところは…」


ざっと見た感じ、4人並んで座れる場所はなさそうだ。


「4人一緒は厳しそうですね。それでは私はティーナ様と見ますので、グラス様とアデル様は2人で見て下さい」


どさくさにまぎれ、ティーナ様の手を握り2人の元を去ろうとしたのだが…


「どうして僕がティーナと離れないといけないんだ。普通こういう場合は、それぞれカップルで座るものだろう」


私の耳元でギャーギャー文句を言うグラス様。本当にうるさい男だ。


「ローズ、兄上の言う通りにしよう。さあ、こっちにおいで」


アデル様が私の手を握ると、そのまま近くの席に座った。そんな私たちの姿を見たティーナ様が、嬉しそうにこちらを見ていた。


「アデル様、ティーナ様が嬉しそうにしていますわ。もしかして、ティーナ様を喜ばせるために、あえて私を連れ出したのですね。さすがアデル様ですわ。私ったら、ついティーナ様と一緒にいる事ばかり考えてしまって」


元々はアデル様に出来るだけ穏やかに過ごして欲しいと思って恋人役を提案したのに…ティーナ様を笑顔にする事よりも、自分がティーナ様と楽しみたいという思いが強く出てしまっていましたわ。


「別に僕は、ティーナを喜ばせたくて君を連れ出した訳ではないよ…僕は君と一緒に劇が…」


「あっ、劇が始まりましたわ」


アデル様が何か話している間に、劇が始まった。私もアデル様も、劇に集中する。


そうそう、この男優さんが本当に素敵なのよね。ついうっとりと見つめてしまう。


「ローズ、こっち見て」


何を思ったのか、アデル様が耳元で呟いて来た。今いいところなのに…

そう思いつつも、仕方なくアデル様の方を向いた。


「どうかされましたか?」


「…いいや…何でもない」


何でもないなら私を呼ばないで欲しいわ!本当にいいところなのに!


再び劇に集中する。


それにしても、この悲恋、何度見ても泣けるわ。

終盤に差し掛かり、涙が溢れ出す。涙を拭くのも忘れ、劇に見入っていると…


アデル様が私の涙を拭いてくれた。


アデル様、相変わらずお優しいのね。でも、今は劇に集中したいの。だから、涙は放置してもらって構わないのだが…


もちろんそんな事は言えない。


「アデル様、ありがとうございます」


そうお礼を言っておいた。結局チョコチョコアデル様の邪魔?が入ったため、あまり集中してみる事が出来なかった。


それにしてもアデル様って、結構世話焼きなタイプなのね。全然知らなかったわ。思いがけないアデル様の姿を見られたのだから、まあ良しとしておきましょう。

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