第8話
私達は死者がこのような
――許せない。
そんな正義感めいた気持ちが被害者の顔見知りである仰木遥にはもちろんあったろう。しかしその時、同じような気持ちが私の中で湧き上がったかと言われれば、それは私にも良くわからない。例えばそれは単純に不可思議な事件への興味本意。もしくは怖いもの見たさの野次馬根性だったのかも知れない。しかしこの時の仰木遥との会話をきっかけにして私はこの事件に深入りしていくことになるのだ。
再び暗闇へと踏み込んだ私達は、先程とは異なりまず入口の広い土間で目を慣らしてから奥の部屋へと進んで行く。すると、まず土間の横には古民家特有のだだっ広い座敷があり、その奥にもいくつかの座敷が
「ねぇ、この廊下ちょっと汚れてますね。」
仰木遥はその泥を踏んで、私と同じ様にそれに気がついたらしい。彼女はしきりに汚れてしまった足を気にしている。そして実は私も先程から濡れてしまった靴下がなんとも不快でならない。
「おそらく犯人が土足で踏み込んだんだろう。」
「あぁ、そうですね。その人が涼介くんの死体をお墓から掘り起こして、そのまま土足で踏み込んだのなら……。」
「亡くなったお子さんは涼介くんっていうのかい?」
「ええ。二週間前に川で溺れしまって。直ぐに
「なるほど。その子供の遺体がねぇ……。で、君はあの黒いアレをその涼介くんだと思うんだね。」
「はい。でも、あの傷み具合なんではっきりとは言えませけど、背格好が似てました。それに……棺に収めた時に着ていた白い着物も。」
よく見ている。まったくこの仰木遥という女子は、よくあの状況でこんな冷静な観察が出来たものだと私は呆れた。そう言えば、さっき
「まさか、そこまで観察していたとはびっくりだ。よくぞそこまで。十秒と保たなかった私は君には頭が上がらないよ。それに……さっき言いそびれてしまったが……私は泣き出した君にかこつけてあの場所から逃げ出そうとした。申し訳ない。こんなタイミングでアレだけど、謝罪だけはしておきたくてね。」
「そんな……謝らないでくださいよ。こちらのほうこそこんな変な事件に無関係のあなたを巻き込んでしまってごめんなさい。それに……。やっぱり
みっともない姿を見せてしまった私の事を気遣ってか、彼女はそんな言葉を私にかけてくれた。そして私は、その言葉を文字通りに受け止めることにして、今度は感謝の意を込めてもう一度彼女に深く頭を下げる。目の前の彼女はそんな私の姿を見てニコリと微笑んだ。
さて、そんな会話をしつつも、薄暗い広縁に立つ私達には、先程から奥の部屋からの話し声が聞こえていた。あの極端に無反応な村人達が被害者の遺体を目の前にして何やら少し揉めている様子なのだ。内容ははっきりとは分からないが、とりあえず私にはそのように聞こえた。
「ばぁちゃん。だから早う切っとけって言ったんじゃ。」
それはおそらく達夫の声。ばぁちゃんというのは彼の母親のことだろう。あの意味深な言葉を言ったおばあさんに違いない。そしてもう一人の女性は話の流れから言って達夫の妻。その三人が私達が聞いているのを知ってか知らずか遺体のことで何やら言葉を交わしいるのだ。
「そうは言っても、動きよるんじゃ切るわけにもいかんじゃろう。」
「バカなこと言うなばぁちゃん。死体が動くわけなかろう。あんなの迷信にすぎん。」
「そうですよ。お母さんだって
「そうじゃ。夫の聡が……。あいつが犯人に決まっとる。そうじゃなかったら逃げる必要なんてありゃせん。」
そんな会話が奥の部屋から微かに漏れ聞こえた。その内容に私と仰木遥は思わず顔を見合わせる。被害者である
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