仲良くなりたいから
突如人の姿になって現れたレーナとキーアに俺は驚いた。
まあすぐにルナが来たこともあってすぐに俺たちは神殿エリアに移動し、ルナが二人から話を聞いていた。
ルナはともかく、レーナとキーアの人化はまだ未熟なようで、ここに移動した頃には元の黒いドラゴンへと戻っていた。
「……そうか、なるほどな」
「どういうことなんだ?」
二人……二匹……あぁもうどっちなんだこれは。
取り敢えず、二匹のドラゴンから事情を聴き終えたルナが説明してくれた。
「あれは厳密には人化というわけではないのよ。私たちドラゴンが魔法を使えるのはゼノも知っているわよね?」
「あぁ……って、もしかしてレーナとキーアの魔法なのか?」
「その通りよ」
ルナが肯定すると、後ろに控えるレーナとキーアも頷いた。
更に詳しく聞くとルナのような純粋な人化ではないため、上手く喋ることも出来なければ長くその姿を継続することも出来ない。しかしながらいくら魔法というものが神秘に包まれているとはいえ、無理やりにでも人の形を取ることが出来る領域に入り込んだのはルナとしても予想外だったようだ。
「人との親和性によってドラゴンは多くの可能性を見出す。元々この子たちはゼノとの親和性があったのもあるし、私があなたと親しくしている姿を羨ましく思ったみたいね」
「……そうだったのか」
「ドラゴン体では難しくても、人の体になれば更に仲良くなれる……二人にはゼノに対する恋愛感情のようなものはなく、単純にあなたともっと仲良くなりたいから人の姿になったのよ」
「……………」
それは……ドラゴンを好きな身としてはとても光栄なことだ。
レーナとキーアもかつて面倒を見ていた二匹でもあるし、そんな彼女たちがこんな風に考えてくれるのは凄く嬉しかった。
ルナのように完全に彼女たちと意志疎通が出来るわけではないので、人となった時に実際に喋れたら色々とコミュニケーションも取れそうだが、流石にそこまでは難しいらしい。
「あ、彼女たちが恋愛感情を持っていないと言ったのは嘘じゃないわよ? 別に彼女たちを脅したりしてそう言わせたわけでもないからね?」
「分かってるよ。というか首を傾げているしなこの子たち」
恋愛感情というものが分かっていないのか、レーナとキーアは首を傾げている。
ただどんな形であるにせよ、人間になれるというのはあまり他人に見せない方が良いとのことで、ルナは絶対に俺だけの前以外で人間になるなと伝えていた。
「俺の前だと良いのか?」
「えぇ。流石にイチャイチャされるのは困るけど、あなたと仲良くなりたい一心で人の形を取るために頑張ったのは認めたいから。この子たち、子供っぽくて馬鹿だと思ってたけどそうじゃなかったのね」
「言い過ぎじゃない?」
「良いのよ。あなただってそう思ってたでしょ?」
……ノーコメントで。
確かに最初の頃は小さな子供を相手する感覚というか、悪ガキを相手にしている感覚だったのは嘘ではない。
後に彼女たちと心を通わせながら仲良くなっていって……そうか、レーナとキーアもこんな風に思ってくれていたんだな。
「……でも、いいかもしれないわね」
「何がだ?」
何かを思い付いたのかルナはこう言葉を続けた。
「もしもこの子たちが人化をああいう形とはいえ手に入れた。難しいかもしれないけれど、更に持続時間を伸ばしたりすることが出来たらあなたの護衛にもちょうどいいからね。元々、レーナとキーアに関してはあなたの元に戻す予定だったのよ」
「そうなのか!?」
それは初耳だぞ。
自分の知らないところで話が進んでいたのはビックリだが、誰にも知られることがないとはいえ、これから先どんなことが起こるかも分からない。
その中でドラゴンの女王であるルナの世話役の俺に万が一がないように、レーナとキーアが俺の傍に居るとのことだ。
「……は~」
「まあ、女王の婿となるのだから普通の計らいよ。ドラゴンの力だけでなく、調竜師を狙う勢力は少なからず存在するのは分かっていること。だからその点も考慮するように彼女たちにはあなたの傍に居てもらうの」
「……分かった」
「もちろん、普段は私と二人っきりでイチャイチャするけどね?」
あ、そこは譲らないんだ。
ルナの言葉にレーナとキーアは不満そうにしたが、それに気付いたルナが少しだけ強く地面を踏むと、地割れが起きたのかと言わんばかりに揺れた。
レーナとキーアはそれだけで縮こまってしまい、やはり彼女たちドラゴンにとってルナがどれだけ恐ろしいと思われているのかが良く分かる。
「レーナ、キーアも。またよろしくな?」
そう伝えると彼女たちはすぐに笑顔になって顔を上げた。
ルナを押し退けるように飛びついてきたので、流石にドラゴン二匹に迫られて耐えることも出来ず、俺はそのまま押し倒されてしまうのだった。
「女王の婿を守る姫騎士二人みたいな感覚で良いわよ。私ほどではないにしても、レーナとキーアはドラゴンの中で特に強い子たちだから」
確かになと、俺は二匹の頭を撫でるのだった。
さて、このようにして少しずつではあるが俺とルナを取り巻く変化が形になって現れていく……そしてついに、結婚式の当日がやってきた。
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