まさかの展開
「俺、結婚することになった」
「おぉ、おめでとう!」
「おめでとう!」
おっちゃんだけでなく、友人たちにも正式に結婚のことを伝えた。
リトを含めた調竜師のみんなが俺のことを祝ってくれるが、まだ本番ではないし彼らには花嫁の姿を見せてもいない。
まあリトは誰かを察しているのは明白だけど、彼らには関しては実際の本番の日に見てもらうことにしようか。
(そもそも、今はルナもかなり忙しそうだしな)
忙しいというのは別に何か仕事をしているわけではなく、マリアンナ様と共にドレスの支度だったりをしているからだ。
『私にとって最初で最後の結婚式だもの。何度も言っているけれど、やっぱりあなたと最高の思い出を作りたいでしょ? 完璧な思い出作り、まずはその第一歩目がこれなんだから』
ルナは決して人の結婚式がどのようなものかを完全には理解していない。
けれども人間である俺に合わせる形でルナは全力で準備に余念がないわけで、俺としても色々と打ち合わせが後に詰まっていたりする。
(二日後にはもう結婚式当日だからな)
そう、既に運命の日まで二日を切っていた。
打ち合わせといっても難しいことは何もなく、そこに関してはリヒター様が主導する形なので俺は言われたことをするだけだ。
こうしてまさか自分の結婚式を最低限なものとはいえ、多くの人が関わってくれる喜びというのは幸せなものだ。
「ゼノのやつ、めっちゃニヤニヤしてんじゃん」
「相手はどんな人なんだろうなぁ……」
そりゃあニヤニヤするに決まってるだろ!
まるで俺とルナの幸せが広がるかのように、ドラゴニスやその周辺国でもキナ臭い動きは何もないので、本当に平和というものが続いている。
相変わらず俺に対するやっかみのようなものはあるし、貴族や騎士たちの目が痛い時もないわけではないが、それももうすぐなくなりそうな動きがあった。
『改めて示さねばなるまい。調竜師という存在の大切さを、調竜師の齎してくれる恩恵がどれだけ国を豊かにするのか、ドラゴンたちとの架け橋になってくれることがどれだけ重要なのかを』
遅くなってすまないと謝られはしたものの、リヒター様も本格的に貴族や騎士たちの意識改革に意欲を持っていた。
ある程度の反発などはあると思うけど、リヒター様はかなり本気なので必ずやり遂げてくれると信じている……というか、たぶんルナに脅される勢いで言わされたことは何となく分かったけど……頑張れリヒター様!
「それじゃあ残りの仕事も頑張りますかね!」
「おうよ」
「やるぞ~!」
さてと、俺も休憩を終えて仕事に……と言いたいところだが。
さっきも言ったようにルナは今マリアンナ様の元で色々とやっているので、しばらく俺は暇になっているのだ。
なので適当にドラゴンの世界で同僚たちを見学しようと思う。
「なんか……新鮮な気分だな」
こっちの世界に居る時は必ずと言っていいほどに神殿エリアでルナの元に居たからこそ新鮮だった。
しかし、そんな風に考えていた俺を見慣れない二人の女の子が出迎えた。
「……え?」
ドラゴンの世界に入って少し歩いた先、他に誰もいない場所で突然目の前に二人の女の子が現れたのだ。
二人とも俺より年下を思わせるが、その体はルナに似て暴力的なまでに素晴らしいスタイルを誇っており、更に言えばその顔立ちも恐ろしく整っていた。
「あ……うあ……あ~う」
「……あ……ぜ……の……っ!」
「……喋れないのか?」
身振り手振りを交えながら必死に何かを伝えようとしてくる。
彼女たちが誰かという疑問は残るが、流石に喋れずにこうして意思を伝えようとしてくる姿を見ていると何かしてあげたいという気持ちは溢れてくる。
(この子たちは誰なんだろうか……つうか、明らかに異質だぞ?)
この感覚……どこかで感じたことがあった。
身近で、それこそずっと感じているもの……まさかと思い、俺は彼女たちに手を差し伸べた。
すると二人はゆっくりと手を伸ばして俺の手を握りしめた。
その瞬間、俺は明確に彼女たちが誰であるのかを知った。
「レーナに……キーア?」
「っ!」
「う……!」
確証があったわけではないが、そう口にすると彼女たちは嬉しそうに抱き着いてきたのである。
俺の中にある何かが彼女たちはドラゴンであると伝えてくるようで、もしかしたらこれもルナの力の影響なのかと俺は考えた。
「……って、ええええええええ!?!?」
しかし、そうなってくるとなんでこの二人が人間になっているんだと俺が驚くのは当然のことだ。
二人とも人間体ではあるが着るものはどうでも良いと言わんばかりのボロ布なので色々とマズいことになっており、この場をルナを見られたら……いや、別に説明すれば良いだけだけどちょっと怖い気もする。
「何をしているの?」
「あ……」
来ちゃったと、俺が思った時には遅かった。
まるで世界を切り裂くように現れたルナは冷たい瞳で俺ではなく、レーナとキーアを見つめたのだが、そこで彼女も人間になっている二人に目を丸くした。
「……どうなってるのよ?」
「さあ……」
まあ、ルナもそうなるかと俺は苦笑した。
だがその時、俺の足に何かが伝った――それは温かい液体。これはなんだと二人に目を向けるとレーナとキーアは完全にルナの眼光に委縮したせいでぷるぷると体を震わせていた。
「こら! 人の夫に何マーキングしているの!」
「これマーキングって言うのか!?」
取り敢えず、その後俺はすぐに体を洗うために一旦離れるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます