旅の終わり

 帝都から離れた後、俺たちはまた少しばかり海の方へと戻った。

 最高速になればルナの速度は圧倒的で、一度行ったところでも瞬時に戻ることは可能である。

 ただ、あの海の水に触れた場所ではなくそこから少し離れた港町を次なる目的地にして俺たちは向かった。


「おぉ……船がめっちゃあるぞ」

「港町というくらいだしねぇ……やっぱり料理は海産物を使ったものがおおいのかしら?」


 あの帝都での騒ぎが嘘なくらいにこの港町は平和だ。

 あと少しばかり時間が経ったら帝都の騒ぎもここまで届きそうだが、そうなってくるとここも少し騒ぎにはなりそうだ。

 俺たちがここに来た目的は観光と夕飯の確保だ。


「海に来た時に私たちに声をかけてきた連中が居たけど、彼らも拠点はもしかしたらここかもね」

「だろうな。ここ以外に街はあるけど結構遠いし」


 仮に出会ったところで難癖付けられるのは俺だけだ。

 相変わらずルナが視線を集めるのは変わらないけれど、あの若い貴族のいた場所があれなだけで帝都やここで無作法に声をかけてくるような連中は居ない。


「……ふぅ」

「どうした?」

「いえ……明日にはもう帰るんだなって思ってね」


 心底残念そうにルナは言った。

 何だかんだ彼女とこうして外に出て二日目だけど、色んなことがあったんだと思えるくらいに濃い数日間だ。


「限られた日数があるからこそ、色んな所をこうして急いで周ってる。そうじゃなかったらもっとのんびりと、それこそずっと空の上を停滞するくらいにお散歩とかして時間を潰したいくらいよ」

「そんなにか」

「そんなによ。何も気にせず……それこそ、永遠に人の姿を取れるならゼノと一緒にこの足でずっと旅をしたいくらいだもの」


 ドラゴンの女王からそこまで言ってもらえるのは光栄だった。

 そんなルナの言葉を聞くとやはり俺なんかよりも立派な立ち位置に居る女性というよりは、ただただ愛らしく思ってくれる可愛い女性にしか見えなくなる。


「ま、いずれはそうなる未来もあるかもしれないだろ? 俺たちはもうお互いに掛け替えのない存在になった。それこそ時間はたっぷりあるんだし、期待しとこうぜ」

「……ふふっ、そうね」


 それから俺たちは暗くなるまで観光を楽しみ、日が沈んでから夕飯を食べるためのレストランを探した。

 この港町でやれることが全て終わった後、俺とルナは街を出た。

 昨日と同じようにルナがここだと目を付けていた人目に付かない場所を陣取り、魔法も使うことで完全に俺たちは世界から切り離された。


「なんというか、こうやって肌を合わせるのも気持ちが通じ合ったからこそよね」

「……そうなのかな? でも……夜になると君が凄く欲しくなるのはなんでだろ」


 ルナが欲しくなるというのはその言葉通りだ。

 日中は特に何もないけれど、日が沈んで後はもう眠るだけという時間になると急激に体がルナを求めだす。

 ルナもそれが分かっているから服を脱いで全裸なのだが、体がとにかく熱くルナのことしか見えなくなる。


「……あ~もしかしたらあれかも。私の体液が段々と体に馴染む過程の副作用みたいなものよ。子孫を残すという本能が刺激されているのかもしれないわね」

「なるほどな」

「でもすぐに慣れると思うわ。それまではとにかくたくさんすることにはなってしまいそうだけど」

「……………」

「まあ大丈夫よ。どれだけしたところで子供が出来る可能性は低いし」


 それを聞いたら安心……とはならなかったが、俺はルナと昨日のように愛し合う。

 そして全てが終わった後、俺はドラゴン体に戻った彼女と体を寄せ合っていた。


“昨日も思ったことだが、体を重ねるという行為は幸せだ”

「……だな。することは単純なのに心が凄く満たされるんだ」

“こんなことを何百年も知らなかったとはな……まあ、想像したとしても相手がゼノでないと思うなら気持ち悪くなってしまう”

「そっか」


 とはいえ……人間とドラゴンの間に子供は出来るのだろうか。

 可能性は限りなく低いとルナは言っていたけど、そもそも前例がないからそう思うという言い方でしかなかった。


「というか、かなりビックリしたぞさっきのは」

“くくっ、まあああいうお茶目な部分も良いだろう”


 実はさっき、行為の最中に変身の限界が来てルナがドラゴン体に戻ったのだ。

 つまり俺は数分間ドラゴン体の彼女とそういうことをしてしまったわけだが、感覚としてはルナを抱いているのと特に変わらなかった……むしろ、いつも見ていた彼女の姿ということで逆に安心したのはもしかしたら、彼女のモノを体に取り込んだことで人間から少し離れたからかもしれない。


「なあルナ、明日にはもう帰るけど……絶対にまた一緒に旅をしよう」

“もちろんだ。リヒターに無理を言ってでも頷かせてみせる”

「あまり困らせないようにな?」

“ある程度は我慢する”


 大丈夫かな……。

 そんな風に夜が遅くなっても俺たちは話し続け、どちらからともなく眠りに就くのだった。

 こうして俺とルナの旅は終わりを告げることになったが、俺にとってもルナにとっても最高の思い出になったのは言うまでもない。

 戻ったら戻ったでリヒター様やマリアンナ様に何をしたのか、どんな旅路だったのかしつこく聞かれそうだが……そこはルナと一緒に思い出を語ることにしよう。

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