結婚?
「……お」
“見えてきたな”
ルナとの旅を終え、俺たちは王国へと戻ってきた。
王都が近づくにつれて空を散歩するドラゴンの姿もいくつか見えたが、ルナの存在を感じ取ったのかそっと道を空けていく辺りこの光景も懐かしいものがある。
“私はそこまで怖いのか? 少し疑問だぞ”
「ま、上司を怖がる部下みたいなものだろ」
“むぅ……ゼノには分かると思うが、私は優しさの塊なのだがな”
「……あはは」
どうやら思っていた以上に、部下に怖がられているというのは思うことがあるようだった。
別にルナが自分からドラゴンたちを恐れさせているわけではないが、ふとしたことで見せる怒りのインパクトが強すぎるせいで、それで他のドラゴンたちが怖がっているんだろう。
まあそれでも嫌っているとかそういうのではなく、純粋に母親の存在にビビる子供というのが正しいかもしれない。
“このまま庭まで行く”
「了解」
既にリヒター様たちにルナが魔法で声を届けているらしく、出来るだけ中庭から人を退けてほしいと伝えたようだ。
何人たりとも近づけさせないと返事があったようで、これなら俺とルナの帰還についてはそこまで話題に上がることもないだろう。
「お、もう待ってるじゃん」
“みたいだな”
人影は二つ、それはリヒター様とマリアンナ様だ。
マリアンナ様はヒラヒラと手を振ってくれており、リヒター様も笑っているので俺たちのことを心待ちにしていたのかもしれない。
ゆっくりとルナが降り立ったことで、俺はその背中から降りて彼らに挨拶をした。
「ただいま戻りました」
「うむ、よくぞ戻った」
「おかえりなさい」
おかえりなさい……か。
まるで親に出迎えられたような不思議な感覚があったけど、こういうのも悪くないなと俺は笑った。
“リヒター、マリアンナも出迎えすまない。満足の出来る旅だった”
「ほう、それは良かった」
「ふふっ、本当に良かったです」
“そして、ゼノと夫婦になった”
「……うん?」
「まあ!!」
えっと……ハッキリとそのまま伝えるんだなルナは。
まあ夫婦というか正式な手続きは何もしていないものの、そもそも人間とドラゴンだからそんなものは必要がないらしい。
ポカンとするリヒター様と目を輝かせるマリアンナ様、対照的な二人の様子を眺めているとすぐに景色が変わった。
「おっと」
魔法でドラゴンの世界に移動したらしく、俺たちは全員あの神殿エリアに居た。
ルナがドラゴン体で俺を抱き寄せたかと思えば、彼女の体が光り輝き、その体は人の形を保ちだした。
光が止んだ時、俺の腕を抱く美しい女性が隣に立った。
「この姿を見せるのはゼノを除けばあなたたちだけよ。王族といえど、あなたたちの息子や娘にすら見せることはないかもしれない」
先ほどの比ではないほどにリヒター様は口を開け、マリアンナ様に至ってはパシンと手を叩いて物凄く興奮されていた。
「こ、このようなことが……」
「これは奇跡だわ……ルーナ様、そういうことでしたのね!?」
これ……俺が思ったよりも普通に受け入れられそうだ。
その後、ルナが人間体になれることは絶対に他言無用だと二人に言い聞かせ、二人は王族の誓いとしてルナに頷いた。
「ちなみに旅の中でゼノとは愛を伝え合ったの。神秘的な湖の中で、美しい空気の膜に包まれるように愛し合ったわ」
「詳しくお聞きしてもよろしいですか!?」
「もちろんよ。おいでマリアンナ」
「はい!」
……マリアンナ様?
女性陣二人から離れ、俺はリヒター様と言葉を交わすことに。
「妃はあれで恋愛物語が大好きでな。きっと、ドラゴンのルーナ殿と人のゼノ調竜師の恋愛が気になって仕方のないだろう」
「なるほど……」
「しかし驚いたぞ……顎が外れると思ったわ」
「あはは……ですよね」
驚くのは仕方ないよなと俺は苦笑した。
リヒター様と並んでルナとマリアンナ様が話しているのを眺めていると、何やら不穏ではないが気になることをリヒター様が口にした。
「流石に大々的にすることは無理だが……是非とも式を挙げたいものだ。ゼノ調竜師とルーナ殿が並ぶ姿を余は見たいぞ」
「えっと……それは……」
「ルーナ殿に提案してみるか……よし、そうするとしよう」
リヒター様がルナに近づき、何かを言ったと思えば二つ返事のようにルナは笑顔で頷いていた。
マリアンナ様も素敵なことだと言わんばかりに腕捲りをして気合を入れており、これは大変なことになったのでは俺の方が焦る。
「ゼノ」
「なに?」
「式を挙げることになったわ」
「……だろうと思ったよ」
「ドレスも見繕ってくれるらしいのよ。ふふっ、ワクワクするわね!」
ということで、完全にルナと式を挙げることは決まったようだ。
ドラゴンであるルナの秘密は公にすることは出来ないので、俺がルナと結婚することも大々的なものは出来ない。
しかし、ルナという人間と婚姻を結ぶ……そのこと自体は伝えても問題はないようなので、国を挙げるというレベルではないがリヒター様とマリアンナ様が俺たちの結婚式を整えてくれる運びとなるのだった。
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