帝都観光
「大丈夫だよな? あんなことしちまって」
“私たちは大丈夫だ。バレなければ問題はない”
「そうだな……うん、その通りだ」
まあ、ルナに対してあんなことを言い出した輩なんだから良い気味だ。
ドラゴンであるルナが帝国の貴族に、というと国際問題に発展してもおかしくはないが……そこはそれ、ルナの言うようにバレなければ問題はない。
「犯罪者みたいでちょっと気が引けるけど」
“何を言う。デートを楽しんでいた私たちを兵士の力で取り囲もうとしたあのバカがどう考えても悪い”
あの都市にそこまで滞在するつもりはなかったが、俺とのデートを邪魔されたことに大層ご立腹らしい。
俺としても騒がしいのはごめんだったので、あんな風に絡んできたあの同年代くらいの貴族には思うことがあるが……確か帝国って王国や他の国に比べて身分制度が厳しいと聞くし、俺みたいなのが口答えしたら問答無用で首を刎ねられそうだ。
“さっきのことはもう良いだろう。見えてきたぞ”
「……おぉ!」
遠い大地の向こうに段々と近づいてくるものが見えてくる。
円形の城壁に囲まれた巨大な都市……先ほどとは比べ物にならないほどの大きさに俺は驚きの声を上げながら、同時に王都以外の巨大都市を見れたことにドキドキしていた。
それから都市に入る直前で地上に降りた後、俺とルナは再び腕を組むようにして城門に向かう。
「むっ、旅行客か?」
「はい」
「その通りよ」
そしてまたこのやり取りだ。
ただ前回のように体を触ったりするような検査はせず、何か機械のようなものを俺たちの体に向けた。
「良し、通って構わん」
どうやら今ので終わったようだ。
「あの時、私たちの体を触ったのは意味があったのかしら」
「……単純に触りたかっただけだったり?」
「……ねえゼノ、帰りにもう一度あそこ寄らない?」
完全に燃やそうとする顔をしていたがなんとか堪えてもらった。
そんな風にコソコソ話をしていたのがマズかったのか、先ほど俺たちを調べた兵士に呼び止められてしまう。
俺はビクッとする中、ルナは面倒そうに顔を歪める辺り大物だ。
「時にお前たち、用が済んだらすぐに帝都を出た方がいい」
「え?」
「どうしてよ」
彼の言葉に俺たちが困惑するのも当然だ。
俺たちの反応ももっともだと思ったのか、彼はこんなことを教えてくれた。
「実は今、帝都を中心に不穏分子の存在が確認されている。故に兵士の数がいつもよりも多く放たれている」
「不穏分子?」
「あぁ。今の皇帝に納得しない者が居るということだ」
「なるほど……」
どうやら結構キナ臭いことになっているらしい。
更に詳しい話を聞くとそう言った存在が確認されていて小さなボヤ騒ぎ程度が確認されているほどなので、規模は不明だがすぐに鎮圧出来ると踏んでいるらしい。
なので帝都に住まう民たちの行動制限は特にされていないため、こうして外から招く旅行者も入れるらしい。
「その機械は?」
「怪しい物を持っていないか、それを確かめることが出来る魔道具だ。お前はともかくとして、そちらの連れているお嬢さんは何も持っていないのが気になるが……」
「あら、だって荷物を持っていたらこうやって彼に気軽に抱き付くことが出来ないじゃないの」
「……なるほど。さっさと行け、独り身の俺に対する当てつけかよ」
そいつは申し訳ない。
俺は拗ねてしまった彼に苦笑し、ルナを連れて帝都の中に入った。
「……でけえ」
「大きいわね」
中に入った時、城壁の内側は正に別世界だった。
機械技術が発展しているのは知っていたが、まさかここまでとはと感嘆してしまうほどの光景が広がっている。
王国とは違うその世界に、俺はしばらく呆然と立ち尽くしていた。
「……っと、すまん」
「良いのよ。ポカンとしているゼノが可愛かったから」
ついつい目の前の光景に呆然としてしまった。
まあそんな俺の姿でルナが喜んでくれたなら良いかと思いつつ、最初で最後になるかもしれない帝都の観光を思いっきり楽しむことにしよう。
なんてことを考えて握り拳を作ると、何故か得意げにルナが笑った。
「最初で最後なんて言わせないわよ? これから何度も時間を作って、あなたと一緒に世界を旅行したいもの。だからまたここにも来るわよ?」
「……俺、声に出してたか?」
「ううん、そう思ってるんじゃないかって思ったんだけど合ってたみたいね」
心を読まれたと思って驚いたけど、ルナのことだから別にそうであっても驚く場面を想像出来ない。
むしろ彼女には全てを知られても良いと思えるこの感覚……それだけルナのことを信頼している証だろうか。
「そうだな。気は早いけどまた来よう。もしかしたら俺たち、長生きするかもしれないからな」
「あ……うん♪」
さあ、観光を楽しむとするぞ!
俺とルナは大勢の歩く人の中を進んでいく……その中で、多くの人がルナを目に留めるのももはや当たり前になっていた。
彼女は俺と腕を組んでいるというのに、明らかに屈強そうな冒険者だと思える男であったり、身形の良い男がルナに声をかけてくるがその度に俺が彼女を守るように先に進む。
「……これよこれ! 実際はドラゴンだけど、私だって好きな人に守ってもらってキュンってしたい年頃なのよ!」
「あはは……ま、俺も男だしな」
「何千年と生きてるけど……はぁ♪ 私の遅咲きの初恋はやっぱり間違ってない!」
俺がルナに対して何かをする度にニコニコとご満悦な彼女を連れながら、普段では決して見ることのない街並みを見て周る。
そんな中、何人かルナが目を向ける人間が居たことに俺は気付く。
その人間の誰もが裏路地に消えていく人ばかりで、注意深く見なければ怪しいと思えないほどに地味な格好をしていた。
「さっきの話、本当かもしれないわね」
「まさかあの人たちが?」
「えぇ。幸いにこの場で事を起こそうとする思惑は感じないし、あなたに危機が迫ってるとも私の勘は言わない。だから安心してもいいかもね」
「そうか……なら安心だな」
「安心してちょうだい。他所の国のことだもの、自分たちの国のことは自分たちで解決させるのが一番よ」
そうは言っても、きっと無力な人が目の前で危険な目に遭いそうになったらルナも手を出しそうだが……もちろん、そうなったら俺も協力すると思う。
でも今は取り敢えず、帝都の街並みを楽しもう。
(……しっかし、帝都ともなると人口が凄く多いな。って、なんか手を振って来る女性の人も居るし)
手を振って来る女性に目を向けていると、ギュッと脇腹を抓られた。
別に見惚れたりしたわけじゃないのに、小さな嫉妬を見せたルナはやっぱり可愛いなと俺は笑うのだった。
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