お返し

「流石帝国、技術も色々と発展しているんだな」

「そうね。技術的な観点で言えば帝国は一番だわ」


 国力を示すものとして多くの指標があるが、帝国は単純に機械技術が発展しており王国では目にしないような機械を数多く見かける。

 いくつか買って帰りたい気分になるが、こういったものは基本的に特別な場合を除いて他国に入れることは出来ず、そこに関しては諦めるしかなさそうだ。


「それにしてもクサトリカの街とは比べ物にならないほど活気があるわね。流石根暗国家と言われているだけあるわ」

「やめたれよルナさんや」

「だって本当のことじゃないの。真昼間から顔を隠すフードとか被っちゃって辛気臭いったらないわよ」


 ルナにとってクサトリカの空気はここまで言いたくなるほどだったらしい。

 まあ俺はそこまで思うわけじゃないけど、確かにクサトリカに関しては二度と行きたくはないかなぁ……変な奴に狙われるのもごめんだし。

 何が他国の男の種を仕込めだよ逆に怖いわ。


「それにしても本当に色々あるんだな……う~ん、これは迷うぞ色々と」

「ゼノが行きたい場所、気になったものを見に行きましょうか」


 そう言ってもらえるならありがたい。

 ルナの人として存在できる時間のことを考えるならば、あまり気にし過ぎる必要はないけど無駄な時間を過ごすわけにはいかない。


「私のことは気にしなくて大丈夫。踏ん張れば時間は伸びるから!」

「それだと楽しめないだろ? それに、こうして君と一緒に出歩けるなら色んな光景を見てみたいからさ」

「……きゅん」


 きゅんって……。

 ギュッと強く腕を抱く力が強くなり、そのまま俺は腕に感じる彼女の柔らかさと温もりを感じながら歩き続ける。

 初めての帝国ということもあるが、ここはまだ近郊都市……これなら帝都は果たしてどれほどの大きさと活気があるのか非常に気になる。


「帝都か……行ってみたいけど流石に無理か」

「いいえ、行きましょう」

「うん?」

「色んな光景を私と見たいんでしょう? なら行きましょうよ」


 いやいや、さっき帝都までは流石に行かないって話をしていたような気がするんだけど……でも俺には分かる。

 彼女がここまで言うということは絶対にそうなるということ、つまり帝都まで絶対に行く気だ俺とのデートという名目だけで。


「……良し、行こう!」

「行きましょう♪」


 ということで帝都行きが決まりましたよっと。

 そうなってくるとあまりここに長居をするわけにも行かなくなったわけだが、適当に何かこの辺りの有名な料理だけでも食べるとしよう。

 昼食にはまだ時間があるので簡単なものだが……そこの屋台で良いか。


「……?」


 ルナと屋台に並んで串肉を買っていた時のことだ。

 俺たちに対応してくれるおっちゃんとは別に、周りがとても静かになっているのを俺は感じ取った。

 チラッと周りと見ると一般人っぽい人は何事かと離れ、コソコソと俺たちを見ながら兵士の人が顔を突き合わせている。


「ゼノ、ささっと食べてしまいましょうか」

「あいよ」


 その言葉だけで全て分かった。

 パクパクと一気に食べるには勿体ないほどの美味しい肉なので、次の機会があったら是非とものんびり美味しく食べたいものだ。

 ちょうど肉を食べ終えたその時、気持ち悪いくらいに派手な服を着た男が現れた。


「そこの美しい異国のお嬢さん、少し良いかな?」


 俺はその声にため息を吐き、偶には俺だってやれるんだぞという意味を込めて頑張ることにした。

 舌打ちをして機嫌の悪そうな顔をしたルナを抱きかかえ、お姫様抱っこをするような形になって駆け出した。


「……ゼノ♪」


 突然のことだったがルナは悲鳴すら上げず、逆に嬉しそうな声を上げてジッと俺を見つめてくる。

 俺は別に筋力自体にそこまで不安はなかったけど、いくら女性ということもあって男に比べて軽い彼女を抱き上げているとはいえ……全然疲れない、むしろどんどん速く走れる気までしてくる。


「貴様ああああああああああ!! 私の花嫁に何をしている!!」

「寝言は寝て言えクソッタレが。この子は俺の嫁さんだボケナス」

「そうよそうよ~! 寝言は寝て言いなさいゴミカス~!」


 たぶん身形からして確実に貴族なんだろうけど、俺とルナはお構いなしだった。

 兵士に指示を出したことでその場に居た全ての兵士たちが駆け出してくるが、自分でも驚くほどに速く走れる俺には追い付けない。


「これ……朝行ってたやつか?」

「えぇ。体が丈夫になるだけでなく、文字通り強くなるのよ」

「……これ、その手の人で欲しい人なら飛びつくぞ絶対」

「嫌よ。あなたにしかあげないわ私の体液は」


 そいつはどうも、俺はそれからもルナを抱えて走り続けた。

 そうやって都市内を走り回っていると騒ぎになるのは当然で、ある程度撒いたところでルナが逆に俺を抱えて走り出し……そして大きく跳躍した。

 建物の屋根から屋根を飛び移るように移動するアクロバティックな動きに惚れ惚れしていると、何かをルナは見つけた。


「見つけたっと……取り敢えず、えい!」

「……あ」


 それは豪華な作りの屋敷だった。

 その庭に向かってルナが指を向けると、まるでそこに大きな重力がかかったかのように地面が陥没した。


「ま、迷惑をかけてきたんだしこれくらいはねぇ。屋敷全部燃やしても良かったけど中に何人か居るみたいだし止めておくわ」

「もしかしてさっきの奴の屋敷か?」

「えぇ。あの屋敷にさっきの奴と同じ魔力の残滓があったから」


 まあ、良くやったと思うことにしよう。

 それから一気に都市の外までジャンプした彼女に下ろされ、俺たちはのんびり堂々と離れていくのだった。

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