ノリノリルーナ
「良い天気だな。ゼノ調竜師」
「リヒター様!?」
仕事の途中、休憩をしている時に俺はリヒター様に声をかけられた。
一国の主が護衛を一人も置かずに歩いている姿はどうなんだと思わなくもないのだが、それだけこの城の中が安全だということに他ならない。
「ビックリしましたよいきなり」
「はは、まあ肩の力を抜くが良い。余も休憩だ」
……まあ、王様も休憩は必要だよな。
俺の隣に座ったリヒター様は装いからしても王という感じで、俺なんか到底手が出ないような高貴な装飾を身に付けている。
しかしながらこうして俺と同じベンチに座っているのを見ると、ちょっと派手なおっちゃんに思えるのは不敬罪だろうか。
「どうしたのだ?」
「……えっと」
「言ってみるが良い。不敬罪だ、などと言って文句は言ったりせん。余は何よりもルーナ殿が怖いからな!」
「……では」
それならと俺は思っていたことを口にした。
すると本当にリヒター様は怒るようなことはなく、むしろそうかそうかと嬉しそうにバンバンと背中を叩いてきた。
「王として威厳ある姿を見せるよりも、そのように親しみのある王として見られた方が余は好む。恐れられるよりも好まれ、遠目に見られるよりも気軽に声をかけられる王が、余もそうだが民からしても良いだろうからな」
「……ですね。そういう部分がリヒター様が民に好かれるところなんでしょう」
「うむ」
そう考えた時に、俺はふと思ったことを口にしてみた。
「だとしたら、ルーナはかなり怖がられていますけどね」
「確かにな! だがまあ、あれでルーナ殿は他のドラゴンたちから絶大な信頼を向けられておるぞ怖いがな。それはそなたも分かっているであろう怖いがな?」
「あ、はい」
ここは……うん、素直に頷いておくとしよう。
それからリヒター様に聞いた話はあのこと、イザストリアの外交官との話をちょうど良かったので聞くことが出来た。
機密事項も多いため深い部分は聞けなかったが、かなり痛い部分を突くように要求を通したらしい……それこそ、二度目があればどうなるか分からないぞと脅しをかけるようにだ。
「小国風情が、そう言うと言葉は強いがドラゴニスは大国だ。故に力の誇示というのは時と場合において必要だ。舐められるわけにはいかんからな」
「そうですね。そのおかげで俺たち民も平和に過ごせているわけですし」
毅然とした態度を取ることは他国への牽制にもなるし、それで平和が保たれている以上は正しいのである。
さて、そんな風に少しばかり世界の情勢などについてリヒター様と話をすることになってしまったのだが、そこでハッとするようにリヒター様が言葉を続けた。
「そうであった。ルーナ殿との外遊についてだが、余の権限で許可を出す」
「……あ、本当に提案したんですかルーナは」
「うむ。提案を受けなかったらどうなっていたか分からんかったが……余もまだ妃や息子、娘たちと過ごしたいのでな」
「……………」
それ、言外に殺されていたかもしれないって言ってません?
とはいえ、これで俺がついボソッと呟いてしまったことが現実になるのか……リヒター様には苦労をかけたようだけど、個人的にはとても楽しみだしワクワクする。
「そなたは本当にルーナ殿に愛されておる。人柄の良さもさることながら、ドラゴンを心から受け入れるその在り方が好まれるのだろう。ルーナ殿だけではなく、他のドラゴンたちからも好かれていると聞くが?」
「それはどうなんですかね。レーナとキーアくらいだと思いますし」
それでも凄いではないかとリヒター様は笑った。
良いタイミングでルーナの話になったのをきっかけだと思い、俺はあることを聞いてみることにした――それはもちろんルーナのことだ。
「リヒター様、少し質問良いでしょうか?」
「構わぬ」
「ありがとうございます。実はドラゴンについてなのですが、ルーナを含めドラゴンたちは強くなればなるほど知性も育まれるというのはありますけど」
「うむ」
「……一説によれば、人の形を取ることも可能だと見たことがあります。それは本当なのでしょうか?」
そう、これは是非聞いてみたかったことだ。
別にルーナが人の形を取れたらそれはそれでどうなるんだって話だけど、個人的にはやっぱりこういうのは興味が絶えない。
俺よりもリヒター様はドラゴンについて詳しいだろうし、王族だからこそ知っていることもあるかもしれない……そう思っての質問だったが、齎された答えは予想出来たものだった。
「確かにそのような話は余も聞いたことがある。しかし、現状のドラゴンの中でもっとも強く知性があるのはルーナ殿だ。だが余は今までに一度も彼女が人の姿になったという話は聞いたことがないし見たこともないな」
「……ですよね」
「うむ。実は余も直接聞いたことがあるぞ? だが、返答は仮に出来たとしても人になってすることはないと鼻で笑われてしまったわ」
……ま、そうだよなと俺も苦笑した。
所詮伝説は伝説でしかなく、ドラゴンに人に成れるというのもまた夢物語でしかないということか。
「そもそも、ルーナ殿が人に成れるのであればそなた……きっと大変なことになっていると思うぞ?」
「え?」
「あれほどにそなたのことを大切にし、そして愛しておるのだ。人に成れたとしたら今頃そなたに引っ付いて離れないであろうよ」
「……はぁ」
ポカンとした俺を見て笑った後、リヒター様は責務に戻った。
俺は既に温くなってしまった飲み物を飲んだ後、仕事の再開だとルーナの元に戻るのだった。
“ゼノ、外遊についての許可が下りたぞ”
「さっきリヒター様と会ってな。その時に聞いたよ」
“そうか! ふふっ、今からとても楽しみだぞ私は!”
嬉しそうに翼と尻尾をブンブンさせる彼女がとても微笑ましい。
ルーナはドラゴンなので人の住む街や村に降りることは出来ないし、変に騒ぎにするのもお互いに望んでいないので……はてさて、外遊の許可は下りたがどんな風に過ごすか頭を悩ませることにはなりそうだ。
“何も心配は要らないぞ? 王都の外に出れば色んな人間は居るだろうが、傍には私が居る――盗賊でも出てきてみろ、劫火で消し飛ばしてくれる”
とても心強い女王様だよ本当に。
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