舐める行為は独占欲の証
“あいええええええええっ!? なんで!? なんで女王様いるのん!?”
“知らないよ! というかあの翼ポン! 明らかに力入ってたし!?”
“アンタがペロペロ舐めるからでしょ馬鹿キーア!”
“レーナだって舐めてたでしょうがスカポンタン!”
仕事に精を出していたドラゴンの娘たち、彼女たちの背後から上司以上の存在である女王に翼ポンされた結果、彼女たちは思いっきりビビっていた。
上の会話はゼノが知る由もない彼女たちの会話だった。
▼▽
調竜師について、そしてドラゴンについて学生たちに知ってもらうイベントは特に何事もなく終了した。
途中からレーナとキーアは人が変わった……じゃなくて、ドラゴンが変わったかのように大人しくなったものの、どうも俺がドラゴンたちを完全に手懐けているようにも生徒たちには見えたのか、最後の辺りでは見てくれていた学生のほとんどが俺のことを憧れの目で見ていたのが何ともこそばゆかった。
『ゼノ調竜師! 良かったら今度は個人的に話を聞かせてください! その時を俺は楽しみにしていますからね!』
別れ際、俺の手を握ってミカエルがそう言った。
あまりの熱量に少し引き気味にはなったが、あんな風に純粋にドラゴンに対して好きという感情を見せてくれるのはレーナやキーアにとっても悪くはなかったようだ。
……ただまあ、テンションの高さに若干の気持ち悪さは感じていたみたいだけど。
「それではゼノ調竜師、本日はお疲れ様だった」
「いえいえ、リーダーこそありがとうございました」
「うむ……うん?」
さて、既に俺たちは城に戻っていたわけだが、そこでリーダーがある場所に目を向けたので俺もそちらに目を向けた。
そこに居たのは見覚えのない数人の男女で、それぞれが表情を硬くして廊下を歩いていた。
「なるほど今日だったか」
「あれは?」
「イザストリアの外交官だ」
「……まさか?」
そう聞くとリーダーは頷いた。
「数日前に君とリト調竜師が被害に遭った件について、そして何故ドラゴンを狙ったのかについて問いただすためだろう」
「……………」
「事件の翌日にも伝えたが、あの件については本当によく無事だったな。後は全てリヒター様たちに任せると良いだろう――彼らはドラゴンの怒りを買った、故にリヒター様たちも生半可な決着にはしないはずだ」
実を言うと、俺個人としてはあの出来事についてはあまり気にしていない。
俺はともかく、リトは少し打ち身があったものの大した怪我ではないし、本人も助かったからこそ気にはしていない。
とはいえ国からすれば他国からの侵入者ということもあり、その狙いが共存する大切なドラゴンとなればリーダーも言ったように軽く済ませるつもりはないんだろう。
「ゼノ調竜師、君が気にすることじゃない……と言いたいが当事者だからな。どう決着したかを直接伝えることはないだろうが、気になるなら後日私に聞くと良い」
「分かりました」
「うむ。君はこれからルーナ様の元に?」
「はい。独り身なんで帰っても寂しいだけですし」
「ははっ、そうか分かった」
それから俺はリーダーと別れてドラゴンの世界に向かった。
「……………」
ちなみに、あの後はずっとルナも不可視の魔法を使った状態で傍に居た。
それでもこうして城に帰らなくてはならなくなったところで、ルナは手を振って居なくなったのだが……ちゃんと無事に帰れただろうか。
また数日後にはあの泉で彼女と会うことになっているし……少しだけ、その時に踏み込んで色々と聞いてみることにしよう。
「……あ、居た」
いつもルーナが居る神殿エリアに向かうと彼女は体を丸めて眠っていた。
もしかしたら俺が居ないということで朝からずっとあの状態というのも考えられるけど、だとしたらたくさん相手しないと満足しなさそうだ。
“やっと帰ってきたかゼノ”
「あ、起きたのか」
そっと近づいたつもりが彼女は目を覚ました。
何も言わずジッと俺を見つめてくる彼女は尻尾でペタンを地面を叩いたので、あれは彼女なりの待ちきれないアピールだ。
「よしよし、もしかしてずっと待ってたのか?」
“もちろんだ。私がここに居る理由はゼノを待つ以外にない……まあ、特に寂しくはなかったが”
「そこは寂しいって言ってくれると嬉しいんだがなぁ」
“嘘を吐いても仕方ないだろう。それに……むむっ、とにかく色々あって寂しくはなかった。私の気持ちは常にゼノの傍にある――だから寂しくない”
「……ったく、本当に可愛いドラゴンだなルーナは」
ルーナに近づき、その顔を撫でると彼女はいつものように俺をその強靭な腕で包み込んだ。
そしてペロペロと頬を撫でてきたのだが……何故か今日に関しては、左頬を舐めたかと思えば右頬を、それを延々と繰り返した。
「なんか、今日はやけに舐めるの多くない?」
“ゼノは私のだ……だから匂いは消しておかないといけない”
「……あ、もしかして嫉妬?」
まさかと思って聞いたらルーナは分かりやすくそっぽを向いた。
よくよく考えれば学院でレーナとキーアの二匹と接している時に良く舐められていたし、それをルーナは感じ取ってこんな風に一心不乱に舐めてきているのかな。
「ま、彼女たちもあまり行かない場所で不安だったんだ。少しは大目に見てあげてくれると嬉しいかな」
“分かっている。私はそこまで狭量ではないつもり……だ。そうだよな? そうだよねそうだと言ってくれゼノ”
「……………」
狭量ではないだろうけど嫉妬深いよなさっきも言ったけどさ。
何も言わず、優しい笑顔を心掛けながらルーナを撫でると、どうも少し気に入らなかったようで俺はそれから数分に渡りずっと舐められていた。
そしてルーナが落ち着いた頃、のんびりしていた時にボソッと俺は呟く。
「どっか、ルーナと一緒に旅をしたいもんだな……なんか今そう思ったわ」
“旅……か。何日もここから居なくなるのは無理だが、二日程度なら或いは……”
「えっと、本気にしなくて良いんだぞ?」
“何を言うか。私はドラゴンの女王だぞ? それくらいの要求はリヒターに頷かせてみせる”
「お、おい?」
“もしも拒めばドラゴンみんなでここから離れると言えば良いか……よし、そうしよう決まりだな!”
俺は何か、とんでもないことを口走ったのかもしれない。
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