第33話 進みだすモノたち。


 暗い部屋でらスマホのブルーライトを存分に浴びる少女がここに1人。


 少女はスマホの画面をタップしようとする、度にまたその指を離す。そんなことを続けてはや数十分。


 少女がタップするか迷っている画面には某ショッピングアプリの決済画面。

 そして、その決済画面の詳細には、露出が目立つコスプレ用メイド服とと市販の睡眠薬が映し出されていた。


「こ、これで……ああして、ああなって……へへ……へへへ……」


 暗い部屋でブルーライトを浴び続けた弊害で目はガンギマリ、それプラスこれを買った後のことを考えてさらに脳が覚醒するという、歪な無限ループを繰り返していた。


 しかし、その無限ループでぶち上がったテンションですら、その画面をタップすることは、まだ躊躇われた。


 本当に使ってしまって良いのだろうか。


 自分の計画通りいくのだろうか。


 それらの不安が、ぶち上げたテンションを抑える鎖となっていた。


 だがしかし。


「……るんだったら……性奴隷に、なれるんだったら……へへ、へ、へへへ……」


 遂に、鎖は外れ、それと同時に理性を持たないモンスターがここに誕生した。


 いや、のだった。



ーーーーーーーーーー



 某日。


 最近はシーナとナツキちゃんが俺の家で暮らすことに慣れてきて、俺もそれが新しい日常の一つとなり始めていた。


 しかし、週一で女子会という名の俺の黒歴史発表会を風花の家でするのは非常にやめてほしいところだ。


「じゃあ今日も2人借りてくねー」

「とー兄さん! 行ってきます!」

「ヒトリでオトナシクしてナ」

「2人はともかく、シーナは言うようになったなおい?」


 俺が睨みを効かせると、そそくさと逃げ去るように玄関を出ていった。それに「待ってー」と言いながら追いかけるナツキちゃん。


 最近は同じ家に唯一の同棲ということで2人の距離は日に日に近づいてきている。


 この前なんか部屋のドアが開けっぱなしになってたから中を覗いてみたら2人で抱き合って寝ていた。次の日の朝、なぜか2人とも俺の布団の中にいたのは本当に謎だったけれど。


 ふと、目の前を見ると2人を追いかけず、なぜか玄関に止まっていた風花。いつの間にか玄関で2人きりの状態になっていた。


「追っかけなくて良いのか」

「あ……うん。行かなきゃね。……それじゃあ、

「おう。また……後で?」 


 俺が言い切るよりも先に玄関から飛び出して言った風花。ほんのりと頬が赤く染まっていたような……ってか。あれ……?


 後でって……何で?


「何か予定、あったっけなぁ……?」


 覚えのない予定を頭の中で探しながら、結局は『後で』の解釈なんていくらでもできるな、という結論に達し、俺は部屋に戻ったのだった。



ーーーーーーーーーー




「っっ……はぁーーー」


 大きく背伸びをして、肺の中の空気を全て吐き出す。それと同時に作業をしている時には感じなかった疲労がどっと肩にのし掛かった。


「今日はこのくらいにして、そろそろ寝るかぁ……」


 時刻も丁度いい。明日は休日だし、ゆっくり寝るとするか。


 俺は椅子から立ち上がり、ベッドに倒れ込む。ボフッと、体が沈み込みバウンドした。


 何度か深呼吸をしていく内に、徐々に重くなってきた瞼を察して、一足先にリモコンで電気を消しておく。


 そして、気付かぬうちに、俺の意識は暗闇に溶けていった。





 ──重い。


 起きているのか、寝ているのかわからない、混沌とした意識の中、ふとそう思う。


 瞼が開いているのか、閉じているのか。それすらもわからないような曖昧な意識の中で、目の前に猫耳が見えたような気がした。


 俺の部屋に、猫耳のグッズなんてあっただろうか。


 しばらく考えていたような気がしていたが、不思議とこの状況に謎を感じることはなかった。


 それはなぜか。理由は至極簡単。おそらくきっと、これはなのだから。


 ぼーっと猫耳を眺めながら、ひょこひょこと僅かに動いていることに気づく。


 俺は手を伸ばし、猫耳に触れる。もふっとした手触りでいて、触り心地はすごく良い。

 開けているのか閉じているかわからない瞼を閉じながら、さらにその感触を楽しむ。


 だが、少し猫耳を撫でていると、突然俺の手から猫耳の感覚が無くなった。手を右往左往させて猫耳を探すが、やはりどこにも見つからない。


 うっすらと目を開き、猫耳を探す。だが、目の前にいたのは、可愛らしい猫耳、ではなく妙に露出の多いメイド服を着た風花だった。


「風花……?」

「あっ、起きられたんですねっっ!!」


 ご主人……様? 


 その言葉に一瞬違和感を感じたが、すぐに自分の中で納得した。そうだ。そういえばそうだった。


 


 俺が深層心理で風花をメイドにしたいと思っていたことは衝撃的だったが、まぁ、夢なんだからいっか、と考えることにした。


 それに、そうと分かれば、特に焦ることもない。


 というか、こんな夢いつ見れるかわからないのだから、逆に目覚める前に楽しんでおいた方がいいとすら思っていた。


「ご主人様ぁ……目覚めのはいかがですか??」


 頬を上気させ、熱い吐息をはぁはぁと漏らしているメイド風花。


 『一揉み』。その単語がどこを表しているのかなんて、男子高校生である俺にとって難しい問題ではなかった。


 夢なら、一揉みくらい、許されるだろう。


 そう思った俺は手を伸ばす。すると、風花が自分の胸元まで俺の手を導いた。


 そして、心配になる程薄い布に指先がふれ、指の第一関節、第二関節、そして手のひらへと触れる面積が大きくなってゆく。


 壊れないようにそっと力を入れると、指に沿うように柔らかく形を変え、熱さがじんと手のひらから伝わってきた。


 どうしようもないくらいにその感触が心地よく、特別な感じがして、力を強くしてみたり、少し場所を変えてみたりと、色々なことを試してみた。


 その内、どこからか嬌声が漏れ出していることに気づく。


「んっ」

「あぁっ……」

「ひゃぁっ……」


 触り方によって声のあげ方が変わるのも、なんだか体を支配しているようで、そういう性癖なんて無かったはずなのに、心の奥底から快感が滲みだしてくる。


 それに伴って、当たり前だが俺の息子はギュインギュインになってしまっていた。


 それはもうギュインギュインに。


 そして、嬌声を漏らし、体をくねらせていた風花にそれが当たってしまうのは、時間の問題だった。


「あっっ……」


 彼女のほど良い肉付きの腰に俺の息子が触れ、驚き混じりの声が風花から漏れ出した。


 なぜか、ニヤリと笑ったような気がした風花が、急に俺の耳元に顔を近づけて、蕩けてしまいそうな吐息を漏らしながら、囁いた。


ってもしかして…………ご主人様ぁ……? 苦しい……ですよね?」


 わかりますよ、知ってますよ。と、そう言って俺の耳を舌でなぞる風花。その感触に、全身が鳥肌になるのを感じながら、俺はどことない違和感を感じていた。


「シーナちゃんも、ナツキちゃんもいるもんね……中々よねぇ……。いいよ、ご主人様ぁ。私に性奴隷の私に、ぜーんぶ、任せてくださぁい♡」


 なぜか一段と声のトーンが上がった風花が、俺の体から降り、服の上から俺の息子をヨシヨシとさすった。


 たったそれだけで、ありえないほどの快感の波が俺の体に押し寄せる。


 だが、その快感の波が来ると同時に思った。


 触られている感触が、あまりにもリアルすぎるのではないか、と。


 ここで、俺の違和感は確信に変わった。


「性奴隷の私に、ぜーんぶぅ、任せてくださいね? ご主人様ぁ。次はぁ、ズボンを脱がせて……」

「ちょっと、待ってくれ」

「……へ?」


 俺は上半身を起こし、枕元にあったリモコンで電気をつける。


 パチ、パチパチと電球が発光をはじめ、部屋中に光が行き届く。


 眩しくて細めた瞳が、だんだんと光に慣れ、初めてこの状況の全貌を俺の目で捉えた。


 眼下に広がっていたのは膝下まで脱がされたズボン。パンツだけは定位置にはあったが、その数センチ上に見覚えのある美少女がなんとも言えない下品な顔で俺の息子をパンツ越しに見つめていた。


 物音で気がついたのか、かなり遅れて目が合う。


 俺は念の為、全力で自分の頬をぶった。すごく痛いし、目の前の景色も何一つ変わらなかった。


 もちろん、風花の表情も、露出が多すぎるメイド服も、全部が全部、だ。


 そして、唖然としながら俺は言った。


「……何……してるんだ?」

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