第28話 紫髪の来訪者②


 紫髪の【ベルグバラゾン】と名乗った美少年は、今現在俺の家のリビングのソファに座っている。

 結局こうなってしまうんだよなぁ。

 俺が優しすぎるのか、はたまたこう言う運命なのか。

 どちらにしろ面倒だということには変わりない。


 ちなみにスリッターのアカウントは確認済み。俺が今まで会話を交わして、中年男性だと思い込んでいたベルグバラゾンさん本人だった。


「んで、もう一度聞くけど、君はなんでここに? どうやって……っていってもどうせ答えないからもういいや」

「おー。ご理解ありがとうございます!」

「理解した訳じゃない……慣れてしまったんだ」

「……? とりあえず僕がここへ来た理由は一つ! 師匠と一緒に住むためです!!」

「本気……?」

「本気っす!! だから実家から飛び出してきました! ちなみにここまで夜行バスで12時間かけてきました! よろしくお願いしまっす!」


 ソファから立ち上がり、胸の前に謎の握り拳を元気に作ったベルグバラゾンさん。意外と熱血系なのだろうか。すごくどうでも良いんだけど。


「……はぁ。どうしようか……」


 正直、今すぐにでも帰していいと思う気持ちもある。

 だが、確かにベルグバラゾンさんとはスリッター上での話ではあるがそこそこ親しいし、一緒に住んで楽しそうだと思ったりもした。実際、半分ネタだと思っていつか一緒にシェアハウスしようと誘われた時も、割と悩まず了承した。


 だからこそ、軽々しく断れない。が、すでにこの家には疫病神が1人住み着いているのだ。

 これ以上住人を増やすのもよろしくないし、部屋もない。てか、そもそもここ俺の持ち家じゃないし。


 その二つを天秤にかけながら、大きなため息を吐いた。


「はぁ……わかりました。いいですよ。ただし、ここに住むのはダメです。その代わりしばらく泊まってっていいですよ」

「ほんとっすか!!!」

「エ、イイのトール? スンナリすぎナイ?」

「お前が時が特殊すぎただけだ。ベルグバラゾンさんは友達が泊まりにくるような感覚だからセーフ」

「あざすっ! あざすっ!!」


 男の子にしては長めの髪の毛をバッサバッサと揺らしながら、何度もお辞儀をするベルグバラゾンさん。

 素性は……まぁ大丈夫でしょ。健全そうな人だし。ちょっと幼く見えるけど、多分同級生くらいだし。

 まぁ、長めのオフ会とでも考えることにしよう。


「あ、それとベルグバラゾンさん。部屋が無いから俺と同じ部屋になるけど大丈夫……だよね」

「へっ? おんなじ、部屋……ですか?」

「うん。別に大丈夫でしょ? 男同士だし」


 流石に中年のおっさんとかだったらきつかったけど、見た目麗しい男の子なら歓迎だ。イケメンすぎてヘイトは溜まるけど。


「あっ……男、どうし……あー」


 一瞬不思議そうな表情浮かべたベルグバラゾンさん。だが、すぐに紫色の髪の毛を触りながら、1人で納得したような声を出した。


「何か不都合とかあった? それとも、俺と同部屋嫌だった? それだったらもう帰ってもらうしか無いけど……」

「あ! 大丈夫っす! それでお願いするっす!」

「おー、おけおけ。シーナも拒否権ないけどいいなー?」

「ウーイ」


 シーナは興味無さげに同意の意味を込めて手を挙げた。

 それを見て、俺は改めてベルグバラゾンさんに向かい合い、手を差し出す。


「じゃあ、しばらくの間よろしくお願いします。ベルグバラゾンさん」


 ベルグバラゾンさんは俺が差し出した手を握り、満面の笑みで言った。

 

「はいっ! よろしくお願いします! さん!!」

「ドキチク? ダイミョウ……じん?」

「……あ」


 正気? と言わんばかりに訝しげな目で見てくるシーナ。

 対照的に1ミリも悪気のない純粋な笑顔を浮かべているベルグバラゾンさん。


 まさか、二年越しに自分のハンドルネームを呪うなんて、思っても見なかった。

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