第26話
今現在。
先程まで壮絶な攻防戦が繰り広げられ、結果としてシーナが敗北。
そして、その背中をさすっていた俺が、その流れでシーナから甘えられ、なぜかシーナはゲーミングチェアに座る俺の膝の上に座っていた。
「座り心地イイネ、このイス。ホシイ、いくら?」
「シーナが座ってるのは俺の膝なんだけどなぁ……」
「ダカラこのイスイクラ?」
「俺かぁ……値段はつけれないし、何より売れないね」
「フリョウヒン……ってコト? 大丈夫、ワタシがセキニン持って引き取ってアゲル」
「そういうことじゃない……けど、確かに俺、社会的には不良品なのかもなぁ……」
学校に行く以外はほとんど家に閉じ籠り、パソコンに向かい合う。休日は一日中自室で過ごすことも少なくはない。
こりゃあ、社会不適合者の一歩手前だなぁ、なんてことを思って地味に病んだ。
「…………」
「ん? どうしたシーナ。俺の顔に何か付いてるか?」
シーナは体を捻り、俺の顔をじっと見てくる。その視線がどうにもこそばゆくて、目をそらすとシーナの小さな両手が俺の頬を挟んだ。
いつも通り何かの悪戯かと思ったが、シーナの目は見たことないくらいに真剣で。
「トールは、不良品じゃない。社会的不適合者でもない。トールは、リッパで、カッコいい。ダカラ、自信持って……ね?」
「……あ、ありがとう。なんか……なんでもない」
「どうシタ? 何か言いたいコトアル?」
「なんでもない」
俺にお姉ちゃんがいたことはないが、きっとお姉ちゃんがいたらこんな感じだったのかなぁ、なんてことを思ってしまった。こんなメスガキに。
「まだゲンキないネ? そんなトールには、ワタシが元気を注入してアゲル!」
「また何する気……って近づいてくるな! キス顔で近づいてくるなぁッッ!!!!!」
一瞬で向かい合うような座り方にチェンジしたシーナは、ゲーミングチェアの上で目を瞑り、いかにもなキス顔をしながら迫ってくる。
刻一刻と迫って来るシーナに対してとりあえず俺の手のひらにぶっちゅーさせ、片手でシーナを持ち上げた。
「んー、やっとワタシを受け入れてくれ……って、エ? なんでワタシ浮いてるノッ!?」
片手で持ち上げるにはかなり重かったが火事場の馬鹿力的なやつでどうにか机の横のベッドにポイした。
シーナは「ハゥアッ!?」って声を漏らしながら、うまい具合に受け身を取っていた。
「はぁ……はぁ……。こんな無駄な体力使わせてくるのやめてくれ……」
「ヤダ。ヤダヤダヤダ。だって、あのキッスを受け入れていればトールもキモチイし、ワタシもウレシイ。win winだよ?」
「そういうことでもないだろ……てか何度も言ってるけど、自分の体をもっと大切にしろ」
「ハーイ。ワカッタ、ワカッタ。仕方ないナァ……キスくらいいつもしてるのに」
「俺の布団を嗅ぎながら言うな…………って、は?」
「ア」
冗談などの類ではなく、本当に失言してしまった時の「ア」だったぞ今の。
俺はあまりのショックに言葉が発せずにいると、しどろもどろになりながらシーナがいった。
「ヒトツ屋根の下、マチガイが起こらないワケもナク…………」
「何正当化しようとしてんだバカ! お、お前! 何やった!? ま、まさか俺が寝てる間にキスを……」
「それは恥ずかしくてデキナカッタ///」
頬を上気させながら、布団で顔を覆うシーナ。本来なら可愛らしいと思うであろうその仕草を、俺はじっと冷めた目で見ていた。
「……お前に羞恥心なんてあるんだな」
「アタリマエ」
「じゃあ、直接してないとしても。一体何したんだ」
「オコラナイ?」
「……場合による」
「ゼッタイオコラナイって、ヤクソクしてくれたら、言う」
「……はぁ、わかった。怒らない」
「ヨシ」
と、満足げな表情でそういったシーナは、相変わらず俺のベッドでゴロゴロしながら、恥ずかしがる訳でもなく言った。
「サイキン、身の回りのモノが新しくナッタ気がしたり、シナカッタ?」
「最近……あー、歯ブラシが新しくなってるような気がしなくもない。あ、下着とかも……って、は……?」
シーナは無言で頷く。
「それ、って、え、もしかして……」
「その、もしかしてダネ」
「俺の歯ブラシも、下着も全部……?」
「ツイデニ靴下と、お風呂のお湯も」
「お風呂のお湯って、どう使うんだよ…………」
シーナが毎回頑なに俺の後に風呂に入っていたが、住まわせてもらっている立場をわきまえてのものだと思い込んでいた。
だが、それが、まさかこんな変態を産んでいたなんて。
もう、怒る気すら湧かない。
絶望の眼差しをシーナに向けると、シーナはとっておきの上目遣いとその顔面を駆使して、「許して?」と可愛らしく言ってきた。
今まで怒る気が湧いてこなかったが、どうしてだろう。その顔を見たらブチギレたくなってきた。
怒らないと言った手前、なんとか自分の心をコントロールしながら、相変わらずベッドに寝転がっているシーナの首根っこを掴む。
「ニャッ!? ナニするのっ!? 怒らないって言ったノニ!」
「怒ってない。怒ってない。怒ってない。怒ってない……」
「怒ってるジャン!!!!!!」
あれこれうるさいシーナには一切耳を傾けず、部屋のドアをあけ、廊下にポイした。
「夜ご飯の時にまた呼ぶ。それまで大人しくしてろ」
「エ、ア、チョ」
バタンッ。
「…………はぁ」
俺は1人で、怒気を落ち着かせながら、俺の中から失われた何かをぼーっと考えていた。
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