第21話 ブラックとポンコツ
「九十九くんに声を掛けたのは──あなたが欲しいから、です!!ー
「僕が……ほ、欲しいっ!?!?!?!」
俺の頭は今、非常にバカになっている。
だって、欲しいって。俺のことを。藤堂さんが。
もしかして、このまま付き合って? 結婚して? 子供は4人くらい──。
「警察庁サイバー犯罪対策課に!!!」
「…………へ?」
「まだ日本ではサイバー犯罪への対応がかなり遅れているんです! 事実、日本国民が知らず知らずの内に、サイバー攻撃を仕掛けられていたり、ハックされていたり」
まぁ、それはなんとなく知ってますけど……諸事情で。
「まぁ、最近はホワイトハッカーという職業が認知されるようになってきて、少し前よりかはマシにはなってきているけれど、それでも他の先進国に比べれば遅れ過ぎているの」
「そ、そうなんですねー」
「だからっっ!!」
目の前にいた藤堂さんはバルルンバルルんさせながら、膝歩きで近づいてきて、俺の手を掻っ攫い、力強く握った。
そして、魂こもった声色で、藤堂さんは言った。
「君もサイバー犯罪対策課、略してサイバー課に入らないっ!? 高校卒業してからの導線は私が作ってあげるっ! だから、そのスキルを役に立ててみないっ!?」
まず、俺の率直で正直な感想を言わせて欲しい。
……あっぶねぇぇぇぇっ!?
だ。
というのも、そこそこ法に触れてしまいそうなこともたまーに、極々たまーにやってたから、ついにツキが回ってきたのかとばかり。
まぁ、そういうことなら当たりざわりのない返事を返しとけばいいだろう。将来の幅が広がった程度に考えて。
「そういっていただけてとても嬉しいです。だけど、自分はまだ高校2年生で、しっかりと進路を決めきれていないので、そういった決断はまだ……」
「そ、そうよね。やっぱり……ハハ。それにあんなブラック、いやよね……そ、そうよね……普通……はは」
なんだか闇を垣間見たような気がする。
なんか気まずくて話を変えた。
「そ、そういえばこの学校に来た本当の理由ってなんなんですか? さっきの言い方的に、藤堂さんはサイバー警察の方……なんですよね?」
「うーん。まぁ、ここまで話したら変わんないか! そう、私はサイバー警察の者です! それで、この学校に来た理由は『名無しの
「ノーネーム……? 名無し、ですか?」
「そうそう。名無しの英雄と書いて、ノーネーム。最近世界を騒がしているハッカーなんです」
「なんか、かっこいい……? すねぇ。……ところで、そのノーネームと藤堂さんがここに来た理由は何か関係あるんですか?」
「むむっ、よくぞ聞いてくれました!」
そう言ってさらに距離を
藤堂さんは俺との距離感が図れてきたのか、少しだけ打ち解けた様子で言った。
「名無しの
「あっ、かもなんですねー……って、エェッ!?!?!」
今までの話を聞く限り、ノーネームはなんかすっごくすごいハッカーらしい。そんなハッカーが!? この!? 学校に!?
なんということだ。お遊びでやってる俺とは大違いに技術とか凄んだろうなぁ……。一度お話がしてみたいとか思ったりした。
「そうなんですっ! すごいでしょう!!」
あたかも自分のことのように胸を張った藤堂さんの。文字通り、胸が張りまくって今にもニット生地がビリリといってしまいそうだ。
「じゃあ、潜入捜査みたいな感じ……なんですか?」
「そうそう〜。数少ないサイバー警察の中から教職免許持ってる人が集められて〜。そして、その中から一番……使えない私が…………ここに………………来たの」
おぅ、おぅおぅ、重ぅい。すっごく重ぉい……。
それにテンションの上下動がなんて激しいんだっ!?
先程の胸をはち切れそうな程に自信満々だった藤堂さんはどこへやら。
今は失業直後のサラリーマンより酷い顔をしていた。相変わらず胸ははち切れそうだったけど。
「つ、使えないだなんて、そんなことないですよ〜。授業もす、すごくわかりやすいですし〜」
「ほっ、本当っ!?!?!」
「あっ、は、はい!!」
予想外の食いつきの良さに若干引きながらも、なんとか平静を装った俺偉い。
「じゃあお話はここまでっ」と、満面の笑みでそう言って立ち上がった藤堂さん。俺も遅れて立ち上がり、お尻の埃を叩いて落としていると。
「あ、そういえばこれ、誰にも言っちゃダメですよ! もしポロリしちゃったら、危ない組織が血眼になりながら追ってきますから!」
「そうなんですねー、了解で……ってぇえぇぇぇ!? 先生ソレっ! 絶対生徒に共有しちゃダメなやつでしょうっ!?!?!」
「いやー、なんかもういっかなぁって……へへへ。あ、それと先生はダメェ……へへ」
先程の
▲ ▼ ▲
────この男はまだ知らない。
『名無しの
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