第6話 お母さんっっ……!!
「あ、そういえばお料理美味しかった?」
風花がホイップクリームを口端に付けたまま俺に聞いてきた。とりあえずホイップクリームを指で取ってやった。甘くて美味しかった。
「うん。めちゃくちゃおいしかった」
「ほ、本当っ!?」
「久しぶりに大人数で食卓を囲んだって言うのもあったし、料理自体も俺好みの味だったし」
「でしょでしょー!!」
「さすが唯花さんって感じだな」
俺がそういうと、そこそこ豊満な胸を張っていた風花が突如として真顔で俺の方を見た。
「…………え?」
「? 何だよ」
まるで、世界から色が消えてしまったかのように、途端に風花から生気が抜け出した。目のハイライトは消え、口元に浮かべていた笑みも見る跡が無い。
そんなわけもわからないまま、最悪の空気感になったこの場を察してか、唯花さんが苦笑いを浮かべながら言った。
「あー、透流君。今日ごはん作ったの私じゃないよー。今日作ったのは風花」
「…………え?」
「じーっ」
「……………………えぇ?」
未だに風花はゾンビもどきのような状態で、俺の目の奥を射抜くかのように睨んできている。これは、何か言った方がいいやつなのだろうか……。
「な、あの、す、すごいな。こんな料理作れるって」
「~~~!!!! でしょ! そうでしょ! でしょでしょ~~!!」
「お、おう……」
先ほどとは打って変わって、いつもの幸せな
彼女の嬉しそうな表情はどんな夜景よりも綺麗に映え、食卓がおしゃれなディナー会場だと錯覚してしまうほどだった。
「唯花さーん……」
「ん? どうしたのー?」
唯花さんは台所で先ほどまで使っていた食器を洗っている。
「これって本当なんです……よね? ドッキリとかじゃなくて」
「本当だよー。透琉くんが来るから私が作りたいーって言って聞かなくてねー」
「おっ、お母さんそれは言わなくていいっ!!」
ニヤニヤしながら俺の方を見ていた風花は、鬼の速さで唯花さんの方へと振り向き睨みつけていた。
だが慣れていないのか、ただ眉間に皺を寄せているだけになっていた。かわいかった。
「いつだったっけ。確か……中学生くらいの時かな? それくらいの時に、好きな人が出来たから料理を覚えてその人のお嫁さんになる。なんて言いだして」
「おっかぁさんんんん!!!!! それ以上喋ったらもう私知らないからねっ!!!!!!」
「ハイハイ。まぁ、こんな感じで相変わらずバカで不器用なのよ風花は」
「相変わらずですねー」
「もうっ、二人してなんなのっっ!!!」
俺と唯花さんは風花を見て笑い合いながら、風花のお父さんは最後まで風花を慰めていた。冗談半分にだけど。
そして時刻はいつの間にか夜の九時を回り、さすがにこれ以上居続けるのも悪い気がしてきたので、風花と唯花さんとおじさんに挨拶を済ませて帰ることにした。
「じゃあ唯花さん、おじさん、今日はお邪魔しました。すごく楽しかったです」
「いえいえー。何なら風花の部屋に泊まっていきなさい? 全然ウェルカムよ?」
「ちょっとお母さんっ!?」
「あ、いや、さすがにそれはちょっと……ハハ」
さすがに幼馴染とは言え、自分の娘を男と一緒に寝かせるなんて。相変わらず唯花さんはぶっ飛んでる。もちろん冗談だと分かっているからいいんだけど。
「そっかー。それじゃあ、毎週ウチに来たら? 毎日でもいいんだけど、透流君遠慮しちゃうでしょ? だから、週に一回くらいでおいで? ウチはいつでも歓迎だから。それと風花も透流君に自分で作ったご飯を食べてもらいたいだろうし?」
「だからおかあっさんってば!!!!」
先ほどから弄られ続けていたせいか、今はこれ以上ないくらいに顔が真っ赤に染まり上がっている。
「風花は良いのか? 俺が毎週来ても」
俺の問いに答えるために、風花が俺の方を見た。
なぜか、視線を彷徨わせて手のひらで顔を覆った後、指の隙間から目を見せながら言った。
「いいよ……別に」
「そ、そうか……それなら、良かった」
いつもと違って、なんだかしおらしい。いじられすぎて疲れたのかな。
「なんだかいい雰囲気じゃーん。……とりあえず透流くん、風花の部屋に泊まっていきなー!?」
「それは遠慮しておきますね」
「だーかーらーお母さんってば!!!!!!!!!!」]
最近は誰とも話さず一人の時間を過ごすことが多かったが、こんな騒がしい時間も悪くないな、と。そう思ったのだった。
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