第4話 疎遠じゃなくなったっぽい
カーテンからの木漏れ日が妙に眩しくて起きた午前七時半。
テレビを付けると、どのチャンネルもラシアとガスタニアの終戦を告げるニュースでもちきりだった。
正直終戦してよかったなぁ……くらいの感想しか思い浮かばない。あんまり政治には関心ないし。
それにしても昨日は比較的早く寝たためか、いつもに比べれば早くに起きることができた。眠気と眩暈でぐだぐだな朝を知っているからなんとも心地がいい。
制服の裾に腕を通しながら、ふと、数日前のことが夢だったのではないかと思った。
だって、最近ほとんど話せていなかった風花と久しぶりに話せただけでなく、風花が家に上がった。それに頼られた。久しぶりに幼馴染を肌で感じた。
なんというか、久しぶりに自分の兄弟と会ったような嬉しさだ。一人っ子だけど。
なんだかこの充実感だけで今日一日学校の授業を真面目に受けられそうだな、なんて事を思った。まったく安上がりな男だな、俺は。
通学用のカバンを持ち、玄関でローファーを履く。時刻は八時少し過ぎ。
「行ってきます」
誰も居ない家に挨拶をして、玄関を開ける。そして、眩しい光と共に目に入ってきたのは、太陽光と同じくらいにキラキラとした制服を着た風花だった。
▲ ▼ ▲
玄関前に立っていた風花と自然に二人で学校に行く流れになり、俺はどうにも距離感を測りかねていた。
俺の家に来た目的は何なのか。
パッと聞ければ良かったが、どうにも自分から切り出せないでいた。
そんな空気を察したのか、風花は風で崩れた前髪を直しながら、口を開いた。
「いやぁー、ピンポンしようとしたらちょうど出てきたからすごくびっくりしたよー」
「そ、そうなのか、まぁびっくりしたのは俺もだけど。それにしてもどうしたんだ。朝一で家にまで来るなんて、何かあったのか?」
「あー、いや、お礼がまだだったなぁって思ってさ。スマホ、ほんとにありがとね!」
太陽の明るさにも負けないような眩しい笑みを俺に向ける風花。なんだか俺の心の暗い部分が浄化されていくような不思議な感覚だ。
「どうって事無いさ、あれくらい」
「さすがだねー。ずっと引きこもってるだけある!」
「そんなに引きこもっては無いぞ!?」
「冗談だよじょーだん!」
ふふふっ、と朗らかに笑い、再び前を向いた風花。
これで、すべてが終わった。
きっと俺への用も、心残りも無いはずだ。俺の方は色々と問いただしたいことはある。主に検索履歴とか。
だけどそれはおそらく俺に関係してくるようなことではない。だから、潔くここで身を引いて、少し前の疎遠気味な幼馴染に戻る。
それで完璧だ。風花もあんまり俺と居すぎると良い評判は付かないだろうし。
「……あ、そう言えば俺忘れ——」
「あっ、あのっ!」
「「……あ」」
まだ何か言いたいことがあったのだろうか。忘れ物を取りに帰るふりをして別々に登校しようと思っていたのだが。
「と、とーる先にいいよ!」
「いや、俺のは大したことない。先に風花が言いたかった事を教えてくれ」
「あー、えーと、そのぅ……」
風花は視線をあちらこちらへと彷徨わせながら、時折俺の顔を覗いてくる。
不安と期待の混じった、なんとも言い難い表情。だがしかし、風花がその表情をすればドラマのワンシーンのようで綺麗という一言に収まってしまう。
美人ってずるい。
「あの、さ……」
さすがの俺でも緊張感が走る。どこがさすがなのか、自分でもよく分からないけれど、とりあえず緊張するものは緊張するのだ。
「も、もしよかったら……良かったらぁ……」
「良かったら……?」
「きょっ、今日、夜ご飯ウチで食べないっ!?」
「……夜ご飯? 風花の家で?」
「う、うん……どう、かな?」
「いや、うん……全然いいけど……」
良いんだけど。こんなに溜める必要はあっただろうか。どこら辺に葛藤があったのか見当もつかないが。
あ、いや、ある。
俺と言う存在を家に上げるという抵抗感。
ではあってほしく無いなぁと思った。
昨日の感じだと唯花さんがお礼に誘ってこいって風花に言ったってことも考えられるし。まぁ今考えても仕方がないか。
それから俺たちは空白の数年間を少しずつ埋めるように語り合った。風花は時折顔を煌めかせたり、顰めたりしながら、話し終える頃にはそこそこ距離が近づいた。ような気がした。
「なんか、久しぶりだね。こういうの」
「そうだな、確かに」
「なんか、最近とーるが離れて言ってるような気がしてさみしかった、から、さ。あ、寂しいって言っても、ちょ、ちょっとだけ! ちょっとだけね!?」
「そ、そうかぁ……」
「そーだよ。……とーるは思わなかった?」
「……秘密だな」
「何それー! ずるいーっ!」
風花は頬をぷくりと膨らませ、プリプリと怒っている。フグのような顔をしていてもかわいらしい。やはり美人は得だなぁ。
「まぁまぁ」
「むー。……でも、本当に嬉しかったよ。久しぶりに話せて。なんというか、これから改めてよろしくねっ、私の『幼馴染』のとーる!」
そう言ってとびきりの笑みを見せた後、スカートを揺らしながら走り去っていった。
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