第3話 その一方で……


 某日。

 ラシア合衆国は隣国であるガスタニアに突如として宣戦布告をした。

 理由は分からない。ガスタニアに眠る資源が目的なのか、それとも大統領が混乱しているという説まで出たが、未だに真相は闇の中だ。

 

 ラシア合衆国は圧倒的な武力をもってして着実にガスタニアを侵略していった。しかし、そこでラシアはある問題にぶつかった。


 金だ。


 軍事力は圧倒的にラシアの方が上。しかし、奇しくも大義名分はラシアには無かった。それもその筈。理由のわからない侵略戦争など、どの国も表立って支援しようとはしなかった。


 世界の大半はガスタニアに軍事的支援を行い、それによってラシアが思ったような侵略を行えていなかった。


 そのせいで、湯水のごとく金が散っていき、いつしかラシアは資金の影響で窮地に立たされていた。しかし、ラシア軍のある部署が一発逆転の画期的な集金方法を思いついた。

 それは、アダルトサイトを閲覧した者を強制的に強力なウィルスに感染させ、金を払えばそのウィルスを解く、というなんとも馬鹿らしいものだった。


 しかし、エロは正義。万国共通みな人間。その作戦のおかげか、みるみる内にラシアの懐が潤っていった。

 それもその筈、ラシアには幸運にも世界一のアダルトサイトを運営している会社があった。その会社を無理やり奪い取り、そのサイトをラシアの国営事業にしたのだ。


 そうして、資金は着実に増えていった。

 しかしそんなある日。何者かの手によってラシア合衆国の重要サーバーが完全に壊滅させられる事件が起きた。


 なんの前触れも無く、世界トップクラスの固さを持つといわれるセキュリティが破られたのだ。そして侵入された思えばサーバーはそのハッカーによって植え付けられたウィルスにより一瞬で壊滅状態に。

 修復も、何もかもを無効化にするそのウィルスは世界のハッカーたちを震撼させた。


 そしてラシア合衆国のサイバー担当の一人は後にこう語った。

『何もできず、我々の英知の結晶が無残に壊されていくのを見ているだけだった』と。


 人間離れした技術に、圧倒的な速さ。そして一度入り込めば止めることのできない崩壊。

 これによってラシア合衆国は前線どころか都市間の伝達にすら不自由を被ることになり、侵略戦争は事実上の終結を迎えた。


 ラシア合衆国の上層部は怒り狂い、原因を究明するようサイバー部隊に勅令を出すが、全くと言ってもいいほど痕跡を見つけることは出来ず。

 結局ラシア合衆国はこの一件で国家予算数年分が飛んだという噂まで出回っている始末だ。


 いつしかこの出来事は、大国にサイバー攻撃をし、証拠を残さず壊滅させた命知らずという意味で、『KAMIKAZE』と呼ばれ、後のある人物の伝説として語り継がれていくようになっていた。

 

 そして、その噂と共にこの一件を引き起こしたハッカーは誰なのか。憶測が世界を駆け巡った。

 世界的ハッカー集団【アンノウン】ではないか、という説や、もう一つの超大国、サザリア連邦のサイバー部門ではないか、という説まで。

 だが、その誰もが知らない。


 小さな島国の、それも齢18にも満たない少年がたった一人でやったということなど知る由もない。


 そして、時は経ち、一時期世間を風靡したそのハッカーは一向に正体を現さないことから、いつしかこう呼ばれるようになる。


名無しの英雄no name」と。

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