第2話 助けてあげた。そして検索履歴を覗いた。
最近疎遠になっていた幼馴染が突然家に来る
↓
突然えっちなサイト見てウィルスに掛かってしまった宣言
↓
そして今。
隣の家の幼馴染である、加賀美風花は俺の部屋のベッドの上で静かにカフェオレを飲んでいる。
ちびりちびりと、マグカップに口を付け息を吹きかけながら少しずつ啜っていく。
さきほどまで混乱していたのか、しばらく涙が止まらなかった。しかし、時間がたった今、流石に落ち着いたようだ。
「なんて言うか、ひさしぶりだな。風花がこの部屋に来るの」
「うん。ずごく、ひざじぶり」
ズルズルと鼻をすすりながらそう言った風花に、俺はティッシュの箱を渡す。鼻を何度かかんだ後、風花はぽつりぽつりと語りだした。
「なんか……その、えっちなサイト見て、変なのになった……んだけど……」
うん、語られるまでも無かった。
「あ、うん……俺の記憶が正しければさっきも聞いた」
「あ、そ、そっかぁ……。……その、クラスでみんな、え、ええ、えっちなことした、とか、彼氏とその……色々してたり、私だけ話について行けてなくって……だから、その……その流れで……」
「そ、そ、そうかぁ……」
妙に重苦しい雰囲気に、息が詰まるような感覚を覚えながら、何とか波長を合わせる。エロサイトみてウィルスに感染したって話なのに。
風花はちびりちびりとカフェオレを飲みながら、放心状態で向かいの壁を見つめていた。
それにしても、確かにクラスでそんな話少しだけ耳に入れたことはあったが。まさか風花まで影響されていたとは。
あ、ちなみに風花と俺は一応同じクラスである。一応。
風花が昔とあまり変わっていないようで、俺はほんのすこし安心した。
あ、相変わらずアホの子なところが。
「それでぇ……スマホ変になって、だけど、それはきっとえっちなサイトのせいだから、ママとパパにも言えなくて……。だけど、もしかしたらとーるなら、直してくれるかもしれないって、そう思って……。とーる、昔からパソコンだけは得意だったし……」
パソコンだけは……うん、間違ってはいないけど何だろうこの切ない気持ち。
「だから、だかっ、ら……お願いしても、いい……ですか?」
風花は、真っ赤に腫れた瞳をゲーミングチェアに座る俺に向ける。
突然何の話だと思われるかもしれないが、風花はかなりモテる。セミロングの茶髪っぽい黒髪に、母親譲りの整った顔立ち。それに女子高生にしてはかなり良い肉付き。
そんな魅力的な女性が目の前に居て、なおかつ泣き顔を晒しながら俺にお願いをしてきているのだ。
……なんだか字面から犯罪の香りが……。
まぁ、それはともかく。幼馴染という贔屓目を抜いても尚、とてつもない美少女なのだ。
そんな美少女からお願いされて断れる男なんていないだろう。
「もちろん。俺でよければ任せてくれ」
「ほっ、ほんとうっ!?!?」
「あぁ、まぁ、このウィルスを取り除くだけなら一瞬だよ。だけど、色々と仕事が増えそうだね、これは」
「う、うん、そこら辺は全然わかんないからとーるに全部任せるよ……あ、だけど……」
「ん?」
「その、検索履歴だけは見ないでくれると嬉しいなぁ……?」
「……あ、はい」
果たしてどんな
チラ見くらいで許してやることにする。
「結構時間かかるけど、大丈夫?」
「うん。ここで待ってる」
俺はスマホをデスクトップPCに繋げながら、風花の方を見る。
マグカップを横の机に置き、倒れ込むようにベッドへとダイブした。見るつもりは無い、見るつもりは無かったが、おいしそ……健康的な太ももが満遍なく晒されていた。
あー、いかんいかん。煩悩退散。
てか今更だが、オーバーサイズのパーカーにホットパンツで普通男の部屋に来るか? なかなか刺激的だよ??? こんなの狼男だったら一発で……もしかして男だと意識されてない?
あぁなるほど合点が行った。
って、煩悩退散出来てないじゃないか。
気を取り直し、いつも通り俺はお気に入りのヘッドフォンを付ける。お気に入りのCDを掛け、ノリノリになりながら3画面と向き合い、先程言えなかったいつもの決まり台詞を決めようではないか。
「さぁて。今日も世界を救いますかぁ」
果たして俺が世界を救ったことがあるのかは知らないが。
――――――――――――――
「これで、終わり……かな」
時刻は午後十二時半。こんなに時間が経っていたのか。
風花のスマホは至って正常。先ほどまでのウィルスは完全に消し去った。
そしてついでにもう今後一生変なウィルスにかからないようなセキュリティと、ついでにこの原因の元である、ウィルスを作った奴らのPCと特定サーバーが一生使えなくなるようなウィルスを仕込んだ。多分今ごろ壊滅状態だ。
あと、どこぞの組織か知らないけど、多分そこまですごい組織じゃないと思う。だってセキュリティゆるゆるだったし。誰でも侵入できそうな感じだったし。
まぁ、どっちにしろこんな組織、壊滅して当然だよね♪
ヘッドフォンを外し、背を伸ばす。背骨がめちゃくちゃ鳴った。
椅子をくるりと回しながら、風花が居るベッドを見た。
「すぅ……すぅ……」
仰向けになりながらぐっすり睡眠中らしい。赤くなっている瞳に、顎に流れる一滴の雫。
あ、ちなみに一滴の雫は涙ではなくよだれである。
陶器のような白いお腹を覗かせていて、なんとも無防備だ。
俺も男なんだぞ、ってことを体で教えてあげたいところだが、もちろんそんな度胸は1ミリたりとも無い。
「おい、起きろ。ほら」
「んなぁ…………むへへ……いやぁ……」
「どんな夢見てんだお前……ほら、おきろー」
「んぁ…………」
ごろりと寝返りをうち、俺に背を向ける。めくれ上がったパーカーから薄ピンクのブラジャーが見えた。
「はぁ……」
俺はため息を吐きながら、そっとパーカーを戻す。本当にこいつは俺から襲われることを考えていないのか。
とりあえず家に帰したいのだが、こうなった以上きっと起きないのだろう。となれば。
「おぶって連れて帰るかぁ……」
そうと決まれば話は早い。スマホを風花のパーカーのポケットに入れて、腕を俺の肩に回しながら風花をおぶる。パーカー越しに感じる二つのたわわな双丘について考えないようにしながら、なんとか隣の家の玄関先まで運び込んだ。
今更だが、担架のような物でも使えばよかったなとめちゃくちゃ後悔した。
ついでに自分の運動不足を呪った。
インターホンを鳴らすと、風花のお母さんである唯花さんが出てきた。
スマホの件を伏せながら簡単に事の顛末を話すと、実の親とは思えないほどの強力なチョップをして一瞬で風花を起こしていた。
ここまでの俺の努力とは一体?
「それにしても、わざわざこんな
「い、いえ、さすがにそれは……あはは」
幼馴染であるとは言え、さすがに全幅の信頼を置きすぎではないだろうか唯花さん。さすがにそこまで聖人君主ではないです僕。
あ、でも単純に俺がチキンなのを見透かしているだけ? 唯花さんならどっちもありそうだなぁ。
「でも、よかったわ。最近、あまり二人が一緒にいるところを見なかったから。未だに仲が良さそうで私も嬉しいわっ」
「いえ、そんな」
「まぁ、ウチの風花をこれからもよろしくね、透流君」
「……はい。それじゃあ、僕はここで」
そう言って俺は二人に背を向けて、自分の家へと帰ろうとしたとき。「ほらっ、しゃきっとしなさいっ!」という抑え目な怒号と「ひゃいっ!?」という抜けている返事が聞こえた。
後ろを振り向くと、風花が恐ろしく頑張って半目を開きながら力の入らない手で俺に手を振っていた。
どうにもその様子がおかしく、俺も笑いながら手を振り返して家へと戻った。
「ふぁ……なんだかどっと疲れたな」
げんなりするほどの疲労感に耐えかねて、玄関先で寝転んでぼーっと天井を眺めていた。
……それにしても、あの検索履歴は何だったんだ。
どんなアブノーマルな性癖を隠し持っているのか。長年の幼馴染としての使命を果たすために確認したのだが、どれもこれも幼馴染ものだった。
幼馴染は良い。もどかしい2人が段々と異性として意識しあってからの純愛イチャラブ……おっと失礼。幼馴染について語るのはここまでとして。
俺だって幼馴染ものにお世話になる事は多々ある。
だが、あれははっきり言って異常だ。なぜなら、
【幼馴染 えっち】
とか、
【幼馴染 えろ】
だとか。
ひどいものだと
【幼馴染 性奴隷】
だとか。
性懲りも無く幼馴染、幼馴染、幼馴染……。
あいつの検索履歴は見事に幼馴染で埋め尽くされていたのだ。
たまに『隣の』というワードが幼馴染に付いたりつかなかったり。というか性奴隷なんて言葉いつ覚えたんだ全く。
しかしまぁ、これまでそういうことには疎かったんだ。スポンジのように色々なことを吸収していってるんだろきっと。
だけど、その
「まぁ、男とすら認識されていない俺には関係ないな。うん、寝よ」
これ以上考えても脳の無駄使いだと考えた俺は、さっさと寝る準備を済ませて電気を消した。
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