第15話 ソイベのお礼
ルニムネに手を引かれたウォザディーは孤児院の扉をくぐる。内装も外見同様で相当に
「ルニムニェェェ」
不意にウォザディーの手が放されたのは、ルニムネに突進して来た少女を彼女が抱き留めたからだ。
「ぐぉめんなしゃい。わだしが言いじゅぎだぁよぉ」
少女はルニムネをぎゅっと抱きしめると泣きながら謝罪する。少しばかり少女の方がルニムネよりも背が高い為に彼女は包み込まれる様な体勢になってしまっていた。ルニムネも言わなきゃいけないと思いつつも、何となく素直になり切れずに相手が謝って来たのを良い事に聞き手に回る。
「ほら、ルニムネも言いたい事があるのだろ」
申し訳なさそうな雰囲気を醸し出しているルニムネをウォザディーが後押しをした。
「ソーネア、違うの。私が我儘を言ったのがいけなかったわ。ごめんなさい」
「ぞんなこちょ無いの。私がお姉ちゃんなんでゃから、ちゃんと聞いてあげれびゃよがったにょぉ」
11歳のルニムネと12歳のソーネアはこの孤児院では年長者に入るが、多感な時期でもあるのだ。普段は仲良しなのだが偶にぶつかる事もある。そして言い合いに発展すると、売り言葉に買い言葉で心にもない事まで言ってしまいルニムネの家出騒動となっていた。
だが、素直に謝り合って二人はまた元の仲良しに戻ったのだった。
食事の時間になって子供達と一緒に食堂の席に着いたウォザディーの目の前にソイベが自ら配膳をする。
子供達はウォザディーに興味津々といった様子だが大人しく席に着いている所を見る限り、貧しいなりにしっかりと躾や教育は行われているようだ。
「それではみなさん。我らが創造主シエルに、今日の糧を感謝しましょう」
「「「いただきます!」」」
年長の子供達も手伝って配膳が終わると食事の時間が始まった。大人数だけあって騒がしく、長年一人きりに慣れていたウォザディーは驚きもあったがそれ以上に幼少の頃を思い出し懐かしく感じる。
「こんな物で申し訳ないのですが」
スープは丁寧に味付けされていて、具材が少ない以外に欠点はなかった。しかし隣のソイベの皿を覗くとほぼ具は入っていなかったので、ウォザディーの分はこれでも多めにしてくれているみたいだった。
食後に子供達と遊びながらウォザディーは皆の体を必要以上に触っていく。遊びに夢中の子供達はその事に誰一人疑問を持たなかった。
「ほら、これを持って行け」
「えっ、えっ?」
第一印象と違い最年長で長女然としているソーネアが年少の子供達を引き連れてお風呂に行こうとしたので、ウォザディーは鞄から取り出す風を装って服を作って渡す。
「ウォザディーさん、それは?」
「まあ、なんて言うか泊めて貰う駄賃みたいな物だ。余り物を仕立て直しただけの物だからな。気にするな」
「えっ、これくれるの! わあ、ぴったりだ!」
皆は大喜びで、風呂に入る前の子供達にもせがまれ次々と作って渡していくのであった。
ルニムネは風呂から上がるとウォザディーの所にやって来る。
「ねえ、ウォザディーさん、またアレやって!」
「参ったな。キーベから釘を刺されたしな。……まあ良いか」
ウォザディーは魔力を調整してルニムネの髪の毛の周りに温風の渦を創り出して、手で髪をわしゃわしゃして乾かした。
その後ウォザディーの前に行列が出来たのは言うまでも無い。
〜〜〜
ウォザディーが風呂から上がるとソイベは丁度子供達を寝かしつけた所だった。
「何だか、子供達が色々と無理言って済みません。はしゃいでいたから寝かしつけるのが楽でしたよ。有難う御座います」
「ああ、こんな事でも役に立ったなら良かったよ」
ソイベは一瞬何か言いたげな表情をしたが、直ぐに元の笑顔に戻る。
「それじゃあ、客間にご案内しますね」
「ああ、宜しく」
通された客間は古く草臥れていたが、綺麗に清掃されていた。
「何だか気を使わせたみたいで悪いな」
「いえ、そんな事ないですよ」
そうは言っても見るからに丁寧に掃除した様子が窺える。
「それでは、お休みなさい」
「ああ、お休み」
なんやかんやでウォザディーも疲れていたのだう。横になると瞬く間に眠りに落ちた。
〜〜〜
「……さん、ウォザディーさん」
「んんっ、……何だ……どうかしっ!」
突如起こされたウォザディーは寝ぼけながら何とか上半身を起こす。そして声のする方に視線を向けた瞬間、あまりの光景に固まってしまった。
そこには逆光で輪郭が輝くように見えるソイベが、風呂上がりの一糸纏わぬ姿で立っていたのであった。
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