第16話 理想と現実と理性と煩悩
ソイベが子供達を寝かしつけて出て行った後に、女子の年長者4人はこっそりと話し合いをしている。
「ウォザディーさん良い人だね」
「そうでしょ」
ソーネアの高評価にルニムネは満足気だった。
「「お金も持っていそうだね」」
アサホとチイコは双子だけあってシンクロしている。
魔法を知らない子供達からすれば、ウォザディーの力はディーケ製品だと思ってしまうのだ。高級なディーケ製品を惜しげもなくたっぷりと使ってくれるからには金持ちであろうと結論付ける。
「ここに住んで欲しいな」
ルニムネは心からそう思っていた。
「それは無理じゃないかしら。ウォザディーさんに良い事が無いよ。お金持ちの人はめりっと? がないと手を差し伸べてくれないって、大人達が言っていたじゃない」
「確かにそうよね」
ルニムネは顔を曇らせる。ソーネアの言う通りなのであるのだ。そもそも無条件で助けてくれる金持ちが居たら、孤児院はこの様な状況にはなっていない事だろう。
「「じゃあ、ソイベ先生とけっこんすれば良いのよ」」
アサホとチイコは自信満々に提案した。
「でもけっこんは好き同士しか出来ないのよ」
ルニムネの言葉に一同は沈黙する。まだまだ子供である彼女等は結婚というものをそう見ているのだから。
「そんなぁ! キーベさんがかわいそうだわ」
沈黙は別の所から破られる。キーベに良く懐いている幼いシビシアが涙目で訴えて来たのだ。
孤児院の子供達はキーベの気持ちを知っている。それ故に答えの出ないまま睡魔に負け、可愛らしい討論会はお開きになるのだった。
▽▼▽
ソイベは大事な部分は手で隠しているものの全裸でウォザディーのベッドに近付いて来る。
「ウォザディーさん、私を好きにして頂いて構いません」
ソイベは決意を固めた表情をしているが、湯上がりだからかはたまた羞恥心からか頬は紅潮し揺れ動く瞳には薄ら涙を浮かべていた。
その顔はウォザディーの欲望を擽る。
「待て」
ウォザディーは必死に理性を奮い立たせた。ソイベは静止の声を無視して、ベッドで上体を起こしている彼にもたれかかるように座る。
ウォザディーはうら若き乙女の柔肌と体温を服越しに感じて欲望の衝動が突き上がってきた。
「その代わり、助けては頂けないでしょうか」
ウォザディーの理性がギリギリの所で保てたのは、ソイベの瞳から今にも零れそうな涙を見たからである。必死に堪えている姿が彼に響き何とか欲望を押さえ込む事に成功した。
「分かった、先ずはコレを着て取り敢えず話を聞かせてくれ」
「……えっ!」
ウォザディーがいつの間にか手にしていた服を着たソイベは、着心地の良さとピッタリなサイズ感に更に驚きを重ねたのだった。
ソイベの話によると、先日孤児院の子供が他所の子と喧嘩をして怪我をさせてしまったそうで、その親の代理人を名乗る男達がやって来て法外な慰謝料を請求して来たという事だ。
「それでそんな金額とても用意出来ませんと言って僅かですが貯めていたお金を渡したのですが……」
「はぁ、完全に嵌められたな。それで、土地を売れと言ってそれが嫌なら体を売れとでも言われたのだろ」
チンピラ共の常套手段だ。おそらく相手の親というの口から出まかせだろう。
「そうです。この土地を売る訳にはいかないですし、娼館に行って不特定多数の男性に体を開く位なら……ウォザディーさんならお金も持っていそうでしたし……」
「分かった。俺が何とかしてやるから安心しな」
漸く全てが繋がったウォザディーには、恩を受けた相手を不幸にするという選択肢は無い。全力を持って助けようと決意する。
「おい! 何で服を脱ごうとする!」
「えっ! 交換条件ですよね」
ウォザディーは頭を抱えたが、その後は懇々とお説教をしたのだった。
〜〜〜
日中にウォザディーは怪我をさせた子供の家を訪ねていた。
「まあ、態々来てもらわなくて良かったのに」
出迎えてくれたのは恰幅の良い女性だ。
「私はウォザディーと申します。この度はうちのイチューソがお宅のお子さんに怪我を負わせてしまって、申し訳ありません」
「いえ、男の子は怪我なんて日常茶飯事なんだし。関わったうちの子も悪かったのですしね。ちゃんと言い聞かせましたから、もう結構ですよ」
やはり思った通り賠償金など取ろうとしている様子はなかったが、この女性はまるで関わりたくないという様におざなりにウォザディーは追い返されてしまう。
家を後にしたウォザディー目掛けて何かが突っ込んで来た。
「ウォザディーさん! 大変! ソイベ先生が連れてかれた!」
それは玉のような汗をかきながら、必死に走って来たルニムネであった。
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