第12話 英雄様

 キーベが語った事はウォザディーには何だか聞き覚えのある話だった。

「まさかその魔物って……」

「いえ、確かに私達も王都の住人も魔物に蹂躙されてしまうと思いました。所が、陛下、当時は王太子でしたが、魔物には裁きが下ると仰り、現に突如として魔物達は消え去りました。それにより悪魔と魔女は国と称した領地へ閉じこもり、休戦状態で今日に至ります」

 ウォザディーは罪悪感から顔を曇らせる。それを見たキーベは魔物によって王都も蹂躙されたとウォザディーが勘違いしたのではないかと思い、結末まで一気に捲し立てた。それで、ウォザディーの二つ目の心当たりもビンゴである事が証明されてしまったのだ。


「そして、悪魔と魔女の大乱の傷が少しは癒えた頃に陛下は弱冠20歳にして国王の座を先王陛下より譲られたのです」

 王太子が国王になっている事はルニムネから聞いて知っていたウォザディーだったが、まさかそんなに早い段階で国王になっていたとは思ってもいなかったので純粋に驚いた。


「今までの話はお前さんの胸に秘めておいて下さい」

「何でだ」

 キーベは真面目な顔で続ける。警備兵としての今後が掛かっているからだ。

「バレたら首が飛ぶんだよ。陛下が即位して真っ先に行ったのは真実の隠蔽と魔法と魔法具という言葉の使用の禁止だ。それはもう、徹底的に行われた」

「でも魔法具は普通に使われているよな」

 先程、身分証を作るにあたって、ウォザディーの顔を写してカードに転写した物も魔法具だ。その他にも、身分証の確認をするのも魔法具に頼っていたし、門を見れば大型の魔法具が付いている。門の開閉も魔法具を使っているのであろう。今は消えているが所々に魔法具のランプも設置されている。ざっと目に付くだけでもそれだけの物が使われているのだ。ウォザディーが居た頃から王都は魔法具で溢れていたのだから、ある意味当たり前の状況だった。


と言ったろ。技術開発のお陰で管理が容易になり、エネルギーの供給法に工夫を凝らしてディーケ製品と呼ばれる事になった。魔法を使える者は元々極少数だったから時が経てば言葉は無くなる」

 ウォザディーは疑念を抱く。キーベはしゃべり過ぎでは無いだろうか。国として魔法と魔法具という言葉を消そうとして、現にほぼ使われなくなった現在で話題に上げるのは良い事では無い筈だ。特に国に仕える様な立場のキーベであれば尚更であろう。


「なあ、貴方あんたは何でそんな事まで教えてくれるんだ。ルニムネに対する恩にしては大げさ過ぎないか?」

「そうだな、俺は成人してすぐに国軍に入った。そして悪魔と魔女の大乱に参戦する事になった。それで何故国軍に入ったと思う?」

 キーベは悪い笑みを浮かべてウォザディーに問い掛けた。

「国を護りたかったのか?」

「いや、そんな大それた事じゃ無い。普通の少年だったんだよ。憧れたヒーローの様になりたかったんだな。ただ俺にとってはそれは勇者じゃなくだったんだよ」

 そう言うとキーベは出来上がった身分証をウォザディーに突き付けて渡すと、背を向けて歩き出してしまう。


「助かった。貴方あんたで良かったよ」

 ウォザディーがその背中に向けて礼を述べる。キーベは振り返る事なく手を上げてひらひらと振っていた。

「気になさらないで下さい。様」

 そのまま本当に小声でボソッと口にする。ウォザディーは魔力の影響で耳が良いので辛うじて聞こえたが、他に聞こえた者はいなかっただろう。


「……だから敬語が混ざったり、言葉使いが所々おかしかったのか」

 全てに合点がいったウォザディーの口元は緩んでいたのであった。

「さあ! 孤児院へ行くぞ」

「えっ、えっ、あれぇ?」

 キーベが急に去った事に事情が分かっていないルニムネは戸惑ったが、ウォザディーも歩き出したので慌てて手を掴んで無理矢理繋ぐ。彼女が見上げた彼の口元には笑みが溢れていた。


「何か良い事があったの?」

「ああ、懐かしい事を思い出した」

 ウォザディーは緩んだ顔をそのままに歩いて行くのであった。


~~~

 魔王を倒して凱旋した時から3人は渾名で呼ばれる事が多くなる。凄腕の剣士だったヤーカンは勇者様、魅惑の呪術使いだったギムテアは聖女様、無名の魔法使いだったが魔王討伐に一番貢献したウォザディーは英雄様とそれぞれ呼ばれたのだ。

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