第8話 30年前

 15歳で成人を迎えたウォザディーは王太子の側衆に任ぜられる。それは側近達の雑用係みたいなもので、平民のしかも孤児院出の者にとっては破格の待遇であった。

 側衆という特殊な役職を作り与えたのは他ならぬ王太子である。その事もあって周囲も割と好意的にウォザディーを迎え入れた。


 だが、それにはもう一つ理由がある。ウォザディーは世界的に見ても稀な魔法の力を扱えるのであった。

 この国では魔法を扱えるのは王付き魔法使いのカウコーヨしかいなかったのだ。彼は御年85歳の大ベテランである。幾ら魔法使いが長命であると言っても彼の魔力量からすると120歳まで生きれれば長生きだといえるのだ。


 しかし、ウォザディーは特別な修練もしていない時点でカウコーヨよりも魔力量が多かったのである。努力を続ければどこまで増えるのかも見当すら付かないのである。


「ウォザディーよ。ここの生活にも慣れましたか?」

「はい、殿下。皆、良くして下さいますし、師匠の教えによって日に日に新しい事が出来る様になっていく事はこの上ない喜びに御座います」

 師匠というのは大魔法使いカウコーヨで、彼はウォザディーに魔法だけではなく様々な知識やマナー、更には言葉使いや所作などを教えていた。ウォザディーにとって王太子が第一の恩人だとしたら、カウコーヨは第二の恩人であり育ての親の様な存在でもあったのだ。


「其方も聞き及んでいると思いますが、この度魔王討伐の軍を各国の連合軍として出す事にまりました」

「殿下も陛下のもとで出陣なされると伺いました」

 周辺国の中ではティディサア王国が国土も一番大きく、軍事力もNo. 1と目されているのである。時に各国を纏めたり、各国の小競り合いを収めたりと世界の舵取りはティディサアが行なっていると言われる位に中心的な国なのだ。


「そうです。それに当たって其方の側衆の任を解く事となった」

「そっそんな!」

 ウォザディーは血の気が引いていくのが感じられた。解任という事はもう側衆でいられなくなる。それは、王太子の側にいられないと言う意味でもあるのだ。

 彼はまだ受けた恩を何も返していない。恩返しをしたいとの思いも強いが、それと同じくらいにもう会う事さえ出来なくなるのが怖かった。


「殿下! どうか陛下にご再考をお願い出来ないでしょうか。此度の戦いは殿下に恩に報いる絶好の機会に御座います。今任を解かれてしまえば、それすら叶わなくなってしまいます。この命に代えても殿下をお守り致しますので、どうか上奏をお願い致します!」

「何を勘違いしているのですか。この解任は其方の為でも有り、国の為でも有るのですよ」

 取り乱すウォザディーを窘めた王太子は、続けて解任後の事を詳しく説明する。


「僕がヤーカン様とギムテア様とご一緒して魔王を討つのですか」

 ウォザディーは実感が湧かなかった。ヤーカンと言えばその道で名を知らぬ者は居ない程の剣士であり、ギムテアと言えば特殊な呪術使いとして名を馳せている聖職者だ。そんな有名人と並べられてもピンと来ないのも仕方がない。

「その顔ではまだ分かっていない様ですね。其方は実践経験こそ無いものの、世界最高の魔法使いなのですよ。胸を張りなさい」

 カウコーヨは世界屈指の魔法使いであり、ウォザディーは知識や狡猾さに於いてなど敵わない部分もある。しかし、それ以外の魔法に関する部分では既に優っていて、トータルで見ると王太子の言うようにウォザディーこそ最高峰の魔法使いであるのだ。


「ですが……」

「私は魔王を倒せるのは其方しかいないと信じていますよ」

 王太子の期待にウォザディーは身が震える思いを感じる。今までの恩を返すにはこの上無い機会なので、必ず魔王を倒すと決意した。


 ヤーカンとギムテアとの顔合わせの時はガチガチに緊張していたウォザディーであったが、二人は貴族であるにも拘わらず彼の事を見下す事も無かった。

 旅を続けて行く中でウォザディーは徐々に素を出す事が出来るようになって行き、彼等に信頼して貰おうと空き時間を使っては修練を積んで行く。結果、今までは世界最強と言っても人類の中という括りであったのだが、魔王の下へと辿り着く頃には全ての種族を含めても頂点に立つ魔法使いとなっていたのであった。

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