第7話 疑惑の絵本
突然目の前の服が燃え上がり灰となってしまった現実に、ルニムネは目を白黒させている。
「一体どういう事なんだ。ルニムネの孤児院の奴はみんなこんなボロを着ているのか?」
「えっと、そう、なのかな?」
ルニムネは灰を見て返答に困ったが、ウォザディーはおそらく燃やす前の状態の事を言っているのだろうと思い肯定する。なので、語尾が上がってしまったのも仕方ない事だろう。
「教会は一体何をやっているんだ! 30年前は慈善事業を第一に行っていた筈だ」
「えっ、30年?」
ルニムネにとっては太古の話でもウォザディーにとっては過去の話で、彼女はその事に改めて驚いたのである。
「そもそも、ヤーカンとギムテアは何をしているんだ! 彼等がいて教会がおかしな方向に進むなんて事があるのか?」
ウォザディーの独り言にルニムネの体が震え出す。
「んっ、どうした」
「ヤーカンとギムテアって、悪魔と魔女だよね」
恐らく怖がっているのだろう。絞り出すような声でルニムネは疑問を投げ掛けて来た。
「はぁっ? いや、勇者と聖女だぞ。それより二人について何か知っているのか?」
「みんな知ってるよ。絵本にもなってるし」
ルニムネは『希望を守った王子様』という絵本の話を語って聞かせてくれた。
〇●〇
その昔、人々を恐怖に陥れる魔物の国が有りました。魔物は街を襲い略奪や人殺しをしていきます。
それを見かねた人間の王は、魔物の王を討伐する事にしました。軍隊が魔物たちを引き付けている間に、凄腕の剣士ヤーカンと邪な力を祓う特殊な術使いのギムテアと人類の希望たるウィザードの3人のメンバーで魔物の王の居城に攻め込みました。
三人は見事に魔物の王を討伐したのです。
褒美として王様から領地を貰いましたが、ヤーカンとギムテアはより多くを欲しました。なのでウィザードを殺して彼の領地も自分達の物にしようと考えたのです。
その計画に気付いた王子様はウィザードを匿い領地には王子の腹心を代わりに向かわせました。
計画が上手くいかなかったヤーカンとギムテアはその腹いせに魔物を使役して街を攻め始めたのです。
ヤーカンは魔物の王を倒した時に魔物達を使役する力を彼から奪っていたのです。
ギムテアは洗脳や魅了の術を駆使して教会を乗っ取ってしまいました。
王子の腹心は最後まで抵抗していましたが魔物の群れに奮闘虚しく殺されてしまったのです。
悪魔と魔女と呼ばれる様になったヤーカンとギムテアは、魔物と恐怖によって従えた貴族家を引き連れて王都に向かい進軍しました。
王国のピンチに王子の要請を受けたウィザードは秘術を用いて魔物を森へと誘い込み自分と一緒に閉じ込めてしまいました。王子はその機に乗じ軍を動かして、悪魔と魔女を追い返したのでした。
こうして悪魔と魔女から人類の希望を守った王子様でしたが、彼の前にウィザードは二度と姿を現しません。悲しかった王子さまでしたが、いつまでも悲しんでいてはいつかまたウィザードに会えた時に叱られてしまうと思い、自分の仕事に励む事にしました。のちに王様となった彼の国は大発展して行ったのでした。
〜fin〜
〇●〇
「どういう事だ」
ルニムネから絵本の内容を聞いたウォザディーは登場人物に違和感を覚える。確かに30年前にウォザディーはヤーカンとギムテアと共に魔王と呼ばれる存在を討ち果たした。
それなのになぜウォザディーだけ偽名なのか。しかもウィザードとは太古の偉大なる魔法使いの名前である。にも関わらず魔法という言葉が一切出てこない。魔女というのも魔法とは関係無しに、悪魔の連れ合いという意味で使われている。
「絵本だから事実とは限らないが……魔物は確かに森に封印した。しかし、何故ヤーカンとギムテアが悪者の様に描かれているのだ」
「悪魔と魔女は悪い人達なのよ。だって、悪い事をしたら悪魔と魔女に連れて行かれちゃうんだもん」
よくある躾の方法だとウォザディーは思ったが、絵本の謎は全く分からなかったのであった。
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