第5話 魔法とディーケ

 ディアトキアは人口や街の活気なども王国一である。王城の有る丘を取り囲むように放射状に広がっている城下町で、王城に近いエリアは塀で囲まれている貴族街となっている。その周りの平民街へは東西南北の門を通らないと行き来できない構造になっていた。


 平民街は内から商工区、住民区、解放区となっていて、それぞれ掘で区切られている。ただ、橋を渡れば自由に行き来できる。

 解放区の北側の教会の隣にルニムネの暮らしているイコルニアツ孤児院があるのだが、ウォザディーの記憶には全く無いのであった。


「そう、なのか? では魔法を知らない事はないだろう。ディアトキアは魔法を応用した魔法具がそこかしこに溢れているのだから」

「魔法……具? 何ですかそれは?」

 ハテナを浮かべるルニムネの瞳は真剣そのもので、ウォザディーを担ぐために演技をしている様子も無い。

「魔法具は多岐に渡るが、明かりを点けたり火を起こしたりする魔法の力が込められた道具の事だ」

「あっ、なんだディーケ製品の事だね」

 ルニムネの返答に今度はウォザディーがハテナを浮かべた。

「ディーケユニットを繋ぐ事で動く道具だよ。ウォザディーさんが言った通りに色々な物が有るよ」

 ウォザディーの顔を見てディーケを聞いたことがないと悟ったルニムネは説明を続けた。


「どうやらそのディーケという物が俺の知っている魔法に類似している様だな。その道具に誰がディーケを込めるのだ?」

「さあ? ディーケユニットはソイベ先生が買って来てくれるのを使ってるから分からない」

 魔法具とディーケ製品の明らかな差はそのディーケユニットという物に有るとウォザディーは考えた。

「ディーケユニットか。何かしらのエネルギーを蓄えた物らしいが果たしてそのエネルギーが魔法なのかどうか……まあ、実際に見てみない事には何も分からんな」

 軽く考察をしたウォザディーだが、結局は実際に見てから答えを出そうと考えるのを止める。


「もうすぐ日も落ちる。明日の朝送り届けてやるから、今夜はここに泊まっていけ」

「良いの?」

 ルニムネが遠慮がちにウォザディーに問い返した。

「はん、子供が一丁前に遠慮なんかしてんじゃねえよ。それに俺にとっては大した手間でも無いしな」

 ウォザディーは言いながら食糧庫の在庫を思い浮かべてそれを使った料理を考える。

『パチン』

 料理の決まったウォザディーは指を鳴らした。


「晩飯の時間だ」

 テーブルに二人分のシチューとパンがいきなり姿を現す。


「わぁっ!」

「さあ、飯にしようか」

 ウォザディーは戸惑うルニムネを余所に席に着く。それを見て彼女も慌ててもう一方の席に座った。


「魔法は何でも出来るの?」

「んっ、ああこれの事か」

 ウォザディーがテーブルの上を指し示すと、ルニムネがコクンと頷いた。

「別に何も無い所から出した訳じゃ無いぞ。ちゃんと食糧庫の材料を使っているし、切ったり煮込んだりの調理の部分を魔法でしただけだ。この皿だって食器棚に有った物だぞ」


「オヤジギャグだね」

 ルニムネがジト目でウォザディーを見る。

「いやいや、違うから。態とじゃ無いからな」

「本当ですか」

 ルニムネは半信半疑のようだ。


「そうだ、ディーケ製品では同じ様な事は出来ないのか?」

「個別になら出来るよ。ただ、食材をいきなり料理に仕上げるなんて事は出来無いよ」

 それを聞いてウォザディーは魔法具と大差無いと思った。

「益々分からなくなった。魔法具とディーケ製品は同じ様な物だと思う。魔法の力で動くかディーケの力で動くかの差でしか無い。後は実際に見てみない事には何とも言えないな」

「じゃあ見てみれば良いじゃん。明日ディアトキアに行くんだよね」

 ルニムネの言う事は尤もである。だから、ウォザディーもあれこれ考えるのは止めにしたのであった。

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