強右衛門(すねえもん)

@fujimura-narumi

馬場信春、南へ

◆武田の本拠、躑躅ヶ崎館◆


今川領、駿河を手中に収めた武田の士気は、

天を突かんとする勢いである。


主だった武将が左右に並ぶ中、

駿河を任せている、穴山・山県に目を向ける。



信玄 「駿河はどうか」


穴山 「市に活気が戻り、人心は武田になびいてございます」

山県 「旧今川の諸将も、我らに協力的です」

   

信玄 「うむうむ、遠江・三河の戦況はどうか」



ここで、若手筆頭の秋山信友が発言。



秋山 「徳川支配下の東三河に攻め入りました。

   田峯城、長篠城、亀山城を落としました」


信玄 「うむうむ、聞いておる、素晴らしい戦果だ」


秋山 「しかし、野田城を落とすことができませんでした…

    城将の菅沼と申す者が頑強に抵抗しまして」


信玄 「わが軍にあって、猛牛と恐れられるそなたを苦しめるとは、

   その菅沼と申すものは、なかなかじゃな」



◆回想(野田城の門の前)


秋山 「菅沼よ、いさぎよく降参しろ!無駄に死ぬこともあるまい」


菅沼 「なにを言うか、武田に下るつもりは毛頭ない」


秋山 「すでに、この一帯は武田のものになったのを、そちも知っているだろう」


菅沼 「腰抜けどもと一緒にするな、わしは武田が嫌いじゃ」


秋山 「徳川のために戦っても、援軍など来ないぞ」



(確かに、田峯城・長篠城・亀山城に武田が押し寄せても、

徳川は援軍を出すことができなかった。

北からは秋山の軍勢、東(駿河)からは山県昌景が圧をかけており、

動きたくても、動けない、それが徳川の現状であった)



菅沼 「援軍などいらん、自分の城は自分で守る」


秋山 「頑固者め、痛い目に合わせてやろう」


菅沼 「その言葉、そっくりそのまま返してやるわ」



秋山の号令一下、城の塀に取り掛かる兵士たち、

塀を壊そうとしたところ、逆に塀が倒れてきて、武田兵は混乱、

そこに鉄砲・弓が降り注ぎ、多くの兵が負傷した。

武田兵は負けじと、再び攻め寄せるが、

倒れた塀の奥には、また塀があり、同じような展開に。

2つ目の塀を乗り越えたら、

3つ目の塀が現れた。


負傷兵が多くなりすぎて、士気は低下。

形成逆転。



菅沼 「どうじゃ、思い知ったか!」


秋山 「無念…」


菅沼 「小城だと思ってバカにしたじゃろ、ははは

   小城には小城の戦い方があるんじゃ、ざまぁ見ろ」


秋山 「いったん、退くぞ」


菅沼 「もう帰るのか、武田もたいしたことないな」


秋山 「その顔、忘れんからな」


菅沼 「いつでも来い、相手してやらぁ」



◆躑躅ヶ崎館◆



秋山 「私にもう一度機会をください、今度は必ず野田城を取ってみせます」


信玄 「秋山、そう焦るな」


秋山 「くやしゅうございます」


信玄 「今回はこれで十分」


秋山 「…」


信玄 「次は拠点作り、城作りだ」



山本勘助亡き後、武田の城作りといえば重臣筆頭の馬場信春である。

徳川との境目に、小山城・江尻城・諏訪原城などを築城。

常勝武田軍の中にあって、その名は他国に知れ渡る。


信玄から見て、7つ年上である。



信玄 「馬場よ、すでに城作りを考えているそうだな」


馬場 「はい、すぐに城を築くべきかと」


信玄 「相変わらず仕事が早い」


馬場 「徳川への押さえになる城を、急ぎ作らねばなりません」


信玄 「して、いずこへ」


馬場 「作手(つくで)に奥平という豪族がおりまして。

   秋山が落とした亀山城を本拠にしております。

   その目と鼻の先に、築城すべきかと」


信玄 「目と鼻の先…」


馬場 「はい、再び徳川に寝返らぬよう、

    新しく作る城は、見るだけで震え上がるような

    そういう城でなくてはなりません」


信玄 「そこを拠点に、徳川を圧迫していくというわけだな」


馬場 「徳川だけでなく、その背後にいる織田にも、

    見せつけねばなりません」


信玄 「徳川を攻めれば、必ず織田が出てくる…その最前線だな」


馬場 「近い将来、必ず起こるであろう

    徳川・織田との決戦に、重要な役割を果たすことでしょう」


信玄 「お主を支える者は誰がよい」


馬場 「すでに控えております」



そういうと、馬場はパンパンと手を鳴らす。

奥に控えていた、甘利・初鹿野(はじかの)、両将が現れる。



馬場 「甘利と初鹿野を連れていきたく思います」


信玄 「両名、馬場の城作りを学び、おおいに助けるのだぞ」


両名 「ははー、かしこまりました」




馬場信春が向かう先は、現在の愛知県の北東部。

現在の新城市・作手(つくで)である。


1日目、甲府を出た一行は諏訪まで北上。

2日目、伊那の大島城を経由

(天竜川を船でくだる)

3日目、下伊那に到着

(天竜川を船でくだる…現在の天竜川ライン下り)

4日目、陸路に入り湯谷温泉で一泊

5日目、長篠城に。



城番である室賀(むろが)が出迎える。


室賀 「馬場さま、お待ちしておりました」


馬場 「おう室賀、ご苦労。早速だがこの城について聞かせてくれ」


室賀 「2本の川の合流点になります。

    川からは攻めにくいのですが、堅牢とは言えません」


馬場 「確かに、平坦だな」


室賀 「力攻めされれば、3日持ちこたえるのがやっとでしょう」


馬場 「3日…うん、そうだろうな」



長篠城は、高い山の上に立つ城ではなく、

川と川が合流する「三角州」に作られた、

規模の小さな城であった。


どれだけ堀を深くしても、塀を高くしても、

防戦には限界がある。

室賀のいう3日というのは、正しい見方であろうと馬場も思う。



馬場 「明日は亀山城に行く」


室賀 「新たに城を作られるとお聞きしました」


馬場 「この一帯を監視するための城だ。

   この土地の者たちが、再び徳川になびかぬよう、そちも協力してくれ」

   

室賀 「はい、明日はそれがしがお供いたします」


馬場 「よろしく頼む」

   

   











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