第13話 ドキドキ!?一緒に下校タイム
「待たせたな、帰ろうか」
体育館から出てきたお姉ちゃんは制服を着た、いつも朝や学校で見るお姉ちゃんそのままで、私は緊張が止まらなかった。
「う、うん!」
そう言って歩き出したお姉ちゃんの後ろをひょこひょこと着いて行くと、
「後ろじゃなくて、隣歩けよ」
と、腕を引っ張られてしまったので、私はもっと緊張したまま、お姉ちゃんの隣を歩くことになった。お姉ちゃんは私の歩く速度に合わせて、ゆっくりと歩いてくれている。それは私が毎朝、放課後にやっていた疑似登下校の成果からわかることだった。お姉ちゃんは歩くのがは早い。疑似登校の最初の頃は私も駆け足ぐらいで着いて行ったぐらいだったから、間違いはない。その時だった。
「ここで話したい?それとも私の部屋で話したい?」
急に振られた話題に、私は驚きの声を上げてしまった。
「……えっと、な、何を……?」
するとお姉ちゃんは私の方を向いて、言った。
「美孤に聞きたいことが沢山ある。なんで好きになったとか、いつから好きだったとか。その話を、美孤はどこでしたいかなって思って」
お姉ちゃんの気持ちを聞いて、私は息を飲んだ。お姉ちゃんはお姉ちゃんなりに、私の気持ちに応えようとしてくれていて、そのために私と話しをしようとしてくれている。それが例え神様の細工だとしても、私は嬉しかった。そうして、どうせ消えてしまう細工なら、全部話してしまおうと思った。
「あ、あのね、お姉ちゃんを好きになったのは、ずっと昔からだよ。小学生の時から憧れてた。でも、ちゃんと恋だってなったのは、中学生の時からかな。クラスの男の子に惹かれたりした時もあったけど、でも、お姉ちゃんに勝てる人なんていなかったな」
そこまで話すとお姉ちゃんは「ふぅん」と言って、返事をしてくれた。私はその会話の間を埋めるように、話を続けた。
「なんで好きなのかはね!最初は憧れだった。かっこよくて、素敵だなって。だけど、どんなところでも完璧にこなすところとか、友達に優しいところとか、本当は少し気を張っちゃうところとか、全部好き。本当のお姉ちゃんなんて、私には多分少しも分からないんだろうけれど、それでも好き、大好き」
そこまで言ってお姉ちゃんの顔を見た時、お姉ちゃんは顔に手をかざして、顔を隠した。
「……お前、そういうところ昔から変わってないな……」
そう言ったお姉ちゃんの顔は、明らかに赤くて、私はなんだか拍子抜けしてしまった。お姉ちゃんはどんなことを言われても、照れたりすることなんてないんだろうなって思っていたのに。それに釣られて私は自分の顔が赤くなるのを感じた。
(そんな不意打ち、ずるいよ……!)
私の言葉で、照れてくれるお姉ちゃんなんか、私の想像にもいない。妄想より現実の方が勝っちゃうなんて、そんなの、ずる過ぎる。だからこそ、この思いはあまりも危なすぎるのだった。
私は立ち止って、お姉ちゃんに告げた。
「お姉ちゃん」
「ん?」
「私ね、すごく、重いの。だから今、お姉ちゃんの顔見たら、そんな顔ほかの人にもするって思ったら、耐えられなかった。だから、やっぱり今日の昼にした話は無しにしよ?私、お姉ちゃんのこと、束縛したくないし……それに……」
そこまで言った時、お姉ちゃんが私の前に立ちはだかったかともうと、そのまま後ろの塀の壁に押された。いわゆる、壁ドン状態だった。私がお姉ちゃん、と言おうとして顔を上げた時、私の耳にお姉ちゃんの声が流れ込んできた。
「いいぜ、束縛してよ。私が動けなくなるぐらいに」
耳に直接流れ込んでくる声は、私の心臓の音よりもはるかに鮮明だった。
「でも、美孤にそこまで出来るかが分かんねーな。私は美孤になら、どこまで束縛されても構わないけど?」
私が声を上げて返事をする前に、お姉ちゃんの手が私の指に絡められる。
「あっ、お、おねえちゃ、ぁ、!」
「美孤はどうしたいの?なぁ、教えろよ」
そこまで言われて、私は自分の息が浅くなるのを感じた。
「ほ、ほかの、女の子はみない、とか。私だけを、見てほしい、とか……」
「他には?」
「ほ、他に?」
私は困惑する頭が、更にぐるぐると回るのを感じた。
「私は沢山あるよ?私以外の三年と連絡するのは駄目、とか」
「し、しない!私、先輩の知り合いなんていないし、連絡先も交換してないし!」
「友達と出かける時もちゃんと私に報告出来る?」
「……私、友達いないから、大丈夫。誰かとお出かけなんてしない」
お姉ちゃんはそうしてしばらく私を見つめていたけれど、そのまま私から離れた。
「……なーんて、まぁ、冗談だけどな。ほら、帰るぞ」
そう言ってお姉ちゃんはまた帰り道を歩き出した。私は顔が赤いのを隠すこともしないままに、お姉ちゃんの後を追いかけた。
「い、今の、冗談!?本気じゃないの!?」
「本気なわけあるか、あんな束縛しないよ、私は」
そう言ったお姉ちゃんの後ろ姿は、何故かほんとのような嘘のような、よくわからないと思ってしまうような、そんな切なさを感じた。
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